コラムColumn

vol.14 せんだんの館

2021/6/8

皆様こんにちは。清水園でございます。 本日お話いたしますのは、東北福祉会が運営する新型特別養護老人ホーム「せんだんの館」での施工についてでございます。

以前こちらでもご紹介致しました、ウェルコム北側石積み・北側西側植栽の次に手掛けた現場との事。平成16年、代表が当時32歳の時でございました。

「この現場は、元々大手ゼネコンへの一括発注から追加でご依頼を受けたものです。当初、建物自体がとてもすっきりとしていて現代的かつ優しげな雰囲気のある一方で、アプローチにつながる部分が何もなく殺風景な印象だったことを覚えています。

施主様もそれを懸念されて、’ウェルコム’での仕事の実績もあった事からお任せいただきました。」

確かに…着工前のお写真を拝見していると建物も少し寂しげな印象です。

しかしながら、建物も仕上がっておられた中での追加発注…ということは、かなり急ぎでの取り組みになったのではないですか?

「おっしゃる通りで…全長約30mの石積みを、段取りと片付け含め10日間で仕上げるといった工期でした。結論から申し上げると、集中して取り組めましたので無事期間内に終わらせることが出来ました。」

それを聞くと少し安心します…とはいえ、30mもの長さ、使用する石もかなりの量が必要になりそうですね。

「10トントラック2台をもっても、山積みの石でした。また、既に完成している建物の壁を傷つけないために、養生用に鉄板も14枚程搬入したのですが…それも1枚2トンとなかなかのボリュームでした。」

それらの石が建物の前に線を張ったように並んでいる姿は、やはり壮観ですね。これまで拝見してきた石積みとは違い、間に緑があることも印象的です。

「これは崩れ積みの中で’石ハサミ’という手法です。石と石の組み合わせに、わざと隙間を開けて植栽する部分を作る積み方です。

これは、初代が得意としていた積み方の一つで、工期が短かったことから採用した積み方ではあったのですが…少々盲点がありました。

と申しますのも、私自身几帳面な性格からなのか…石を隙間なく積んでしまうので、むしろ’隙間を開けて積む’事が苦手だということが、積み始めてからわかりました。

また、この隙間の開け方というのも上下ジグザグになるように開けることが理想なのですが、綺麗に積めば積むほど隙間が無くなってしまうので…途中で強度に影響のない石をわざと外して隙間を作って積んでいく、という不思議な積み方になってしまいました。」

石積みにおいて、代表にとっても得手不得手があるとは…確かに、隙間というのも’わざと開ける’のには違った技術力が求められそうですね。

「そうですね。とはいえ、石ハサミを採用し石と石の間に植栽をすることで、石積みや建物全体の印象が柔らかく、かつ華やかになります。石積みの良さを全面に出すには石積みだけで完結させる、という手段もありますが、’どこまで自身が納得できるものに仕上がるか’という点においては、石ハサミに取り組んで良かったと感じております。」

‘石ハサミ’と呼ばれる、石積みの中に植栽を行う積み方での施工。既に完成している建物の前に積む…というのもなかなか緊張感を伴います。

「そうですね、特に壁際の石。一度コンパネで養生し仮置するのですが…やはり本番で置くときは一発勝負。失敗すれば補修しなければなりませんので、スピード感も必要ですが’決めきる’気概も必要です。とはいえ、角石と壁際の石が決まればあとは決まっていきます。」

石積みに関して、「完成図はだいたい予想が立つ」と代表は語ります。

「そう、石を積んでいる最中は’答え合わせ’のような感覚です。自身の予想したとおりに積めるのかどうか、早く確かめたいので…休む間も惜しんで積んでしまいます。」

水糸がなくても感でまっすぐ積むことが出来るのは、代表の強み。昨今、AI(人工知能)が何でも出来るようになった時代ではございますが、素材との出会いや何を選ぶか…は、生きた職人にしか出来ないことだと改めて感じさせられます。

「ちょうどこの頃に’自分は石積みが出来るようになった。’と感じていました。100人いたら100通りの積み方があるのが石積みですが、

様々な条件から’10日間で詰める’という自信があるからこそ、私はこの現場で石積み・石ハサミを選びました。人によっては10日間で完成するために、石積みという手段を取らない方もいらっしゃるかもしれません。

他にも早くできる方法はあるかもしれませんが、自分で納得の行く仕上がりを追求し最善を選択するのは、とても大事なことと思います。」

作業の進行として、4日目には石積みの速さから植栽に取り掛かられたのだそう。5日目に植栽、6日目に景石をおいて再び植栽、7日目には片付け…といった流れになったとのこと。

「大型クレーンを使用したこともあり、さらに早く作業が進みました。遠くにあるものを移動するのに、また工期を短くするのに大型クレーンは外せません。

清水園で所有している4トントラックで追加の石を搬入しながら、同時進行で進めていきました。

‘ウェルコム’もこの現場も、極限の集中状態で出来るはずもないことが出来たと感じています。また、クライアントから’なんだ、ちゃんと出来たんじゃないか。’と言われたとき…これは最初で最後の褒められた経験にもなりました。

その後は、やはり’出来て当たり前’、とてもハードルが高い仕事ばかりを請け負うことになったのも、この現場がきっかけでした。

とはいえ、そこで’逃げるかやるのか決めるのは自分’。責任もなんでも自分で背負います。大変ではありますが、後から振り返って’この現場は自分でやったこと’、’自分の作品だ’という自覚や自負、自信も持てるのは、かけがえがなくとてもありがたいことだと感じます。」

ちなみに、やはり16年前の仕事なので’今ならもっと上手く積めるなあ…’と感じることもあるそうで。

経験を積み、現場を振り返ることで自身のキャリアを実感できることもまた、形・空間として残る石積みの持つ魅力なのかもしれません。



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