vol.13 おもてなしの庭研修会
2021/5/25
皆様こんにちは。清水園でございます。 頬をなでる春の風が心地よく感じられるようになった頃、代表から「東京へ行ってまいります。」との連絡が。
と申しますのも、東京タワーの目の前にある芝公園が会場となる「第30回 緑の環境プラン大賞」におきまして、一般社団法人 日本造園組合連合会が金賞を受賞したことから、全国の日本庭園管理士補やそれに準ずる資格所有者による「おもてなしの庭」制作の研修会が一年遅れで行われる…とのことでした。
本日は、その研修会についてのお話でございます。
「研修会には全国から数名、最終的には39名の造園家たちが集いました。前期・後期とそれぞれ2週間、私は後期に参加しましたが…非常に刺激的な素晴らしい研修会となりました。」
‘おもてなしの庭’は、日本の伝統庭園のスタイルを持つ「逍遥(しょうよう)の庭」とモダンなスタイルを持つ「はなやぎの庭」2つの庭の制作を通して、石積み・景石・竹垣・植栽などの内容をそれぞれの講師のもとで受講するといったものでした。
「私は’はなやぎの庭’内、主に’臥龍(がりゅう)垣’と’疾風垣’と呼ばれる竹垣の担当となりました。
かねてから石積みを得意としていたものの、やはり分野により得手不得手はあり…これまで竹垣にはあまり力を入れていなかったんですね。とはいえ、せっかくの研修会です。これも勉強のタイミングだと思い研修に挑みました。」
代表が担当したという’はなやぎの庭’内にある’臥龍垣’ と’疾風垣’をお写真で拝見した際、思わず息を飲みました。竹で作られているとは思えないほど、その大胆かつ壮大な曲線。空間の中で圧倒的な存在感を放っています。
「’臥龍垣’は昔からある竹垣の手法の一つで、龍が伏せたような姿からその名前がつきました。確かに、この大胆な曲線は特徴的ですね。
地面に交差して刺さる’組子’を鉄筋で結束します。この鉄筋が、曲線の大元となります。鉄筋の上から竹穂を巻きつけ芯を丸く作り、その上から太い竹を64枚に割った竹を巻いて作られています。
’疾風垣’はその臥龍垣を簡素化したもので、割った竹を竹穂に巻きつけた後に曲げていきます。」
臥龍垣は10mと19mと本来の竹よりも長いものがほとんどで、約7mの竹を2本3本と繋いで作られるのだそう。
「繋ぎ目を龍のウロコのように見せ残しているところもまた、臥龍垣の特徴の一つですね。中でも19mの臥龍垣は、現存する竹垣では一番長いものとの事です。これまで石垣を多く手掛けてきたこともあり、このように長い竹垣が空間の中で存在感を発揮する場面に立ち会えたことは貴重でした。
庭を構成するにあたり、やはり’アール’…’曲線’があるだけで空間の印象は大きく異なります。全体の動きや、物と物同士が呼応し合うリズム感のようなもの。
それは他の要素があるからこそ引き立てあうことのできるものなのだと、とても勉強になりました。」
私もこれまで、代表から石垣にまつわるお話を多く伺っていただけに、とても目に新しく楽しい現場を見せていただきました。
とはいえ、やはりこれら大作を制作するにあたり、’臥龍垣’の押し縁は一本の太竹を64枚に割り、組み直していく…とのことでした。竹をそれだけ細かく割るのにも骨が折れそうです。
「確かに…ここはなかなか大変な作業でした。竹も自然のものですから、割る過程でどうしても太い細いといった勝ち負けが出てきます。
いかに均等に割るかがポイントとなります。中でも竹の節の部分は固く力加減が一番難しい箇所。
竹を割る際にはナタを自身の方向に向けて竹を割るので、手を刺してしまったり、ささくれに向かって割り進めていくので刺さったり…と慣れている自分たちでも緊張感と責任感を伴う作業です。
また、やはり中に入れる竹穂は大量に必要ですし、それを丸めて芯にする作業や押し縁の竹を割ったり…6人がかりで一日中材料作りを行った程です。」
やはりそれだけの労力がかかり、仕上がった竹垣だったのですね。この大胆で力強い曲線も、細かく割られた竹の所以でしょうか。
「そうですね、臥龍垣は64枚、疾風垣は32枚に割る。ともに大きな曲線を描いているのには、やはり竹をそれだけ細かく割っているから、という理由があります。
臥龍垣の場合は竹を一度8枚に割り、またそれを更に8枚に割ることで竹が64枚に分かれます。最終的にはそれらをもう一度組み直すのですが、組み直す際にバラバラにならないよう、番号を振って組み直すようにします。」
そう、竹の大きな特徴でもある’節’。組み直す際に順番を間違えてしまえば割った角度が違い戻らなくなってしまうために、必ず元のとおりに組み直す必要があるのです。
「もちろん、違う竹同士というのもご法度。そして、組み直す際に竹と竹の隙間が開かないように組んでいくことも大切です。臥龍垣では何度もゴムハンマーで叩きながら調整し、結束バンドで仮止め、最終的にはそれらを銅線で束ねていきます。
銅線は時間の経過とともに緑青が出て、将来的に竹と馴染んでくれます。細かなところではありますが、やはり造園の仕事は経年を見越して様々な素材を選んでいきます。」
素材の選び方一つにしても、環境とともにあるお仕事であることを実感致します。さて、代表のお話を伺いながら、’疾風垣’の作業風景にふと目が止まりました。
先程、’臥龍垣’では後から竹を組み直していましたが、’疾風垣’では既に巻かれた竹を人が担いで高さの調整をしています。
「そうですね、臥龍垣と疾風垣は見た目こそ似ているものの作り方が異なります。また、疾風垣は予め竹穂を巻いておくのですが、巻き方にしても人によって’早く作ることの出来る方法’が異なります。
組み方にしても、端から順に仕上げていく方がいれば、先に粗い丸いまま仮組みをして端から順に仕上げていく方もいたり…取り組みやすい方法がそれぞれ違うという事を見られるのも、人が多く集う研修会ならではですね。」
やはり全国から造園家の集う研修会。代表も多くの刺激を受けたそうです。
「全国から選ばれた人々でしたので、皆さん一流、なにかしらのエキスパートばかりです。一つの現場を取り組むのに、通常であれば工程など細かな打ち合わせを行うことがほとんどなのですが…そこはほとんど打ち合わせをせず、何かをやるにしても短い確認作業だけで進めていきます。全員がやるべきことを把握できているので、そこは流石の仕事の早さでした。」
この中の数人が集まれば一流の会社が作れるのでは…と冗談ではありつつも賛辞を交えながら、工程表に目を通します。ふと、作業が数日前倒しで進行していたことに気づきます。
「そうなのです。もともと全体の作業量からしてスピードを求められる日程ではあったものの、予定していた残り3日の片付けも前倒しで終わるほどでした。
私の作業していた’はなやぎの庭’から、もう一つの’逍遥(しょうよう)の庭’の作業工程は見られなかったものの、完成した庭を見た限りではやはりかなりのペースで作業を進めておられたことと推察します。」
竹垣をはじめ、竹ひごを編み込んだ’じゃかご’や龍のうろこのように瓦が積まれた’うろこ垣’など、目に楽しい要素が散りばめられています。
「皆さんなにかしらの一流・エキスパートである、というお話をしましたが、お互いの得意分野を持ち寄って学び合うことの出来る研修会でした。
何か一つの技術を身につけるのにも、やはり時間と飽くなき技術への探究心、そして反復した鍛錬が必要です。
’元来持ち合わせた才能’や’得手不得手’以上に、やはり皆さん何かしら自分の時間を犠牲にして得てこられたかけがえのない技術をお持ちです。
研修会では、’お互いが違うものを持ち、お互いに得るものがある’、また改めて’自身の突出したものは何なのか’考えたり発見させてもらうことが出来たように感じております。」
また、造園家独自の’仕事の早さ’について、代表はこのように語ります。
「’庭師は詐欺師だ。’と言われる所以でもあるのですが…例えば、建築の場合は何ヶ月もかけて一つの景色を作ります。
それは型枠を組んだりコンクリートが固まるのを待つといった、土台作りや仕上げなどに長い時間が必要だからです。
一方で造園の場合は、既にある土地に石垣を作るのか、竹垣を作るのか、植栽を施すのか…といった具合に、広範囲を一気に手掛けることが出来る良さがあります。
’庭師は数日で景色を変えてしまう。’、確かな技術を持つからこそ出来る魔法のように早い仕事。本当に、夢のあるいい仕事だと思います。」
今回の研修会を通して、代表が多くの方々と時間を共有できたからこそ、私も普段の現場とはまた違った造園の魅力を知れたように感じます。
皆さんも東京へお越しの際は、’おもてなしの庭’をぜひお楽しみ頂けますと幸いです。