vol.15 庭の経年変化
2021/6/22
皆様こんにちは。清水園でございます。
前回お話いたしました「宮城野区K宅造園工事」にまつわるお話を、本日はお届けしたいと存じます。
弊社ではこれまでご紹介した石積みや移植、大規模な庭施工から個人宅の造園まで幅広く手掛けております。現場が完成してお引渡しを行うことが常なのですが、「特に植栽を行った現場は、ここからが第二のスタートなのです。」と代表は語ります。
「完成品だけど未完成…と、一見矛盾しているような表現ではありますが、実際引き渡し直後から変化していきますので良くも悪くも始まりだと考えております。と申しますのも…ここから木は日当たりの良い方にどんどんと伸びていきます。植栽の時点で木々の成長を加味しているので、時々剪定するなど手入れを通して、木々を庭の完成に近づくよう躾けていきます。」
K宅のお庭の推移を拝見すると、確かに完成直後と7年後、9年後とではその様相が大きく変わっています。完成直後は線の細い印象だった木々も、7年後には随分と立派に育っている事が分かります。
「とても豊かな印象ではありますが、植栽は一切増やしていません。7年目までは、特に手を入れず木々も伸ばしっぱなしの状態にしておきました。7年目にようやく剪定をし、2年伸ばすと9年後の写真のように仕上がります。」
7年目と9年目のお写真を見比べてみると、全体のボリュームこそ損なわれていないものの、後者はより整然とした印象を感じます。代表曰く「木の大きさはほとんど変えず、光が通るように枝を落としています。ですので、より奥行きも感じられる仕上がりになりましたね。」
木々の成長を見越しての作庭には、完成直後の華やかさは少ないものの利点も多くあるとのこと。
「時として’最初から大きな木を植えれば完成するのでは?’と仰る方もおられますが、例えば法面工事となると植栽にも制約が出てくるんですね。
例えば、大きな木を植えるとなると、その大きさに合わせて法面も深く掘らなければならなかったり、高さの分石も高く積まなければなりません。
一方で、小さな木ですと最初から深く掘る必要はありませんので、法面を壊すことなく、なおかつ隙間を少なくとって数を多く植えることができます。」
先程お話していた’木々を庭に合うよう躾けていく’というのも、
「例えば、南側に日当たりがある場所で、木は北側に伸びてほしい…と思ったとしましょう。その場合、伸びてほしい木の南側に他の常緑樹を植えます。そうすると、伸びたい方向(南側)に他の樹木があるので結果的に北側に伸びていく…といった経緯です。また、それでも南側には伸びていきますのでそれら枝を落とし、本来伸びていく方向を残して剪定することで理想的な形を作っていく。剪定を通して、木に伸びるう方向を教えていく、といった意識で庭を作っていきます。」
ただ木を植えるだけではなく、’その後’がいかに重要なのか…ということに気付かされます。
また、造園において植栽がその印象を大きく左右する…といった事にも気付かされます。
「自然風作りの庭に関しては、講習会でもお話した御手洗さんからの影響を大きく受けていますね。ここでいう’自然風’というのは、’自然の原風景’と捉えていただくといいかもしれません。
例えば、神社やお寺といった格式高い場所ですといわゆる’銘木’…鑑賞に耐えうる良木を植える必要がありますが、個人の庭の場合は面積や予算、工期にも制約があります。庭全体を見た時に、それが自然な山に見えるよう作っていきます。
真っ直ぐな木だと不自然ですので、なるべく斜めの木を植えたり…法面の勾配に合うよう植えていくことも心がけております。」
現場のお写真を拝見する限りでも、緑の美しさに癒やされ、鳥のさえずりまで聞こえてきそうな程です…
「庭にテーブルや椅子を置いてそこに座った時、’視界が木で覆われ他の建物や電線などが見えなくなる’…などといった事を念頭に作庭します。自然に溶け込み自然を満喫する…そんな心穏でいられる庭が理想ですね。
また、季節の移り変わりも考慮します。例えば、建物の手前には落葉樹、奥に常緑樹を植える…といった方法を取ることが多いです。
と申しますのも…夏の間、落葉樹は木陰を作ってくれますし、冬になれば葉が落ちて日当たりが良くなります。また、清水園のある仙台は冬が永いので…黄色の鮮やかなロウバイを植えることで、2月頃雪の中真っ先に咲いて、早い春の訪れを報せてくれます。」
以前こちらでも何度かお伝えした、代表が大切に考える’家庭’…家と庭の関係性。個人宅の庭は毎日帰る、居心地の良いところ…その居心地の良さを自然の力でいざなう。また経年変化を通して木々を剪定し躾けながら、庭を作り上げていく…まさに’引き渡してからが第二のスタート’という事を実感致します。
「もちろん、竹垣など劣化するものもございますが、石には苔が生えるなどより魅力を増すものも多くあります。
木々に関しては細かな剪定はせず、2年に一度5年に一度…枝を落とし抜いていくといった方法で手入れを行いますが、木々が育っていくこと…ある意味’庭の成長’を見守るのはとても楽しいものです。木も生き物ですから…剪定を通して庭のルールを樹木に教えていくのが我々造園家の役割だとも思っております。」
人もまた木も成長し、変化していく…自然のものを扱っているからこそ、経年変化然り万物は流転するのだという事を、造園というお仕事を通し気付かされます。
さて、次回は代表が’手を焼いた’という、ある’庭石’についてお話させていただきます。
ぜひ楽しみにお待ちいただけますと幸いです。