コラムColumn

vol.49 箱庭

2022/8/2

皆様こんにちは。清水園でございます。

この頃は暑い日も続く中で、自室は窓を閉め切り空調を効かせながら原稿を執筆しておりますこの頃…部屋に居るいくつかの観葉植物達に癒されながらも、屋外に目立った庭を持たない事も相まって、この時期は窓の外を眺めることがなんだか減ってしまったようにも感じる次第です。

本日お伝え致しますのは、思わず筆者も「我が家に欲しい…」と感じた小さなお庭の話でございます。

「箱庭、というものをご存知でしょうか。」

勉強不足故、恥ずかしながら初めて伺いました…という筆者に代表は大丈夫ですよ、とお声がけくださりました。

「これは、私が敬愛する造園家・御手洗さんが考案されたものなのです。平成24年に私も初めて拝見し衝撃を受けた次第です。」

時は平成23年、東北に訪れた大きな震災の事を皆様もご記憶にあられることかと思います。被災後、東北に住む多くの方は住居を失い、仮設住宅での生活を余儀なくされました。必要最低限の設えに、住人の皆様はそれぞれ工夫を凝らしながらより快適に過ごされるものの…やはり外観の味気なさは否めません。

「俺みたいな年寄りが自ら運転して庭を持っていくことで、仮設住宅の人達に元気になってもらいたい。」

一見その突拍子もないようなアイディアを提案したのは、当時73歳のカリスマ造園家・御手洗さんでした。大分から宮城まで…庭を持ってくると仰るのです。「玄関でもベランダでも、どこでも庭は置けるだろう。」

その言葉に嘘も二言もございませんでした。御手洗さんは大型トラックで宮城県まで「箱庭」を運び、そこからは仮設住宅へ運ぶまで一旦代表の資材置き場を借り、青年部会員の4トントラックに積み替え仮設住宅まで運び入れたとの事です。

「箱庭がどういったものなのか、具体的にご説明しますと…約1×2m弱の箱を、’そっぺ’と呼ばれる半円状の木材で囲み、中に土を入れて作庭したものです。このサイズであれば、確かに移動が可能な庭になります。

これらは御手洗さんがご自身で材料を集め制作していただきましたが、’全部廃材で作った’との事ですから…流石の一言です。」

大きなサイズで1×2m、小さなサイズで90×70cm程度の箱庭を、大小それぞれ18個持って来られたとのこと。仮設住宅の集会所に設置していきます。

例え「箱庭」とはいえ、近くで拝見するとまさに本物のお庭と見紛うクオリティーの仕上がりです。

「庭の一番大事なのは設計なのですが、’こういう風景ってあるよね’と思わせるところが御手洗さんのすごいところです。深い山、川の流れ、尖った石から柔らかい石に繋がる配置など…物語が存在しています。例え作る庭が大きくても小さくても、実力・技能のある方の作る作品は非常にスケールが大きなものだと思わされます。また、新しいことに挑戦されるそのチャレンジ精神もまた、非常に尊敬しております。」

殺風景だった仮設住宅に箱庭が加わることによって、一気に現場が華やいでいる様子が伺えます。

「住まわれている方々も、大変喜んでおられましたね。御手洗さんはお話上手な方でしたから、皆さんすぐにファンになられていました。お人柄の魅力はもちろん、箱庭の魅力は変え難いものがございました…まるで本物の庭かのようなストーリーある設計。

また、使用している木材などは炭化させ腐り難くするなど工夫が凝らされていました。また、箱庭にはそれぞれ丸太で足下駄が施されていますが、これも下に穴が開いていて水捌けを良くしているのと、資材の腐敗を防ぐ為のものです。

箱庭は本物のお庭よりは小さな分、よりこまめに手入れしないと縮尺的にも伸びたところが目立ってきてしまいます。草取りはこまめに、枝も細かく剪定するのが理想的ですね…本体としてより長持ちするように作られているところと、住人の皆様がそれぞれ思い思いに庭を手入れできるような仕上がりになっています。」

最終的には「好きなように眺めてもらったらええ。」との事で、御手洗さんは大分へ戻られたとの事です。

「実はこのお話には続きがございまして…やはりこの‘箱庭’、非常にユニークなものですから他で紹介できる機会がないか、とその後仲間内で話題になっておりました。

そんな中、仙台市技術連合会で開催される‘青葉区民まつり’が宮城野区の持ち回りの年にあたり、箱庭を紹介しよう…という流れに至ったわけなのです。」

青葉区民まつりでは、造園を初め瓦・板金など様々な分野の団体が集い、それぞれの仕事内容を紹介するようなブースを出されるとの事。普段、造園のブースでは苔玉や竹細工などの催しを行なっていたそうなのですが、確かに箱庭の紹介にはうってつけな機会です。

「御手洗さんにご相談したところ、お手製の箱庭を大分からだいたい中間地点の京都まで運んでいただけることになりました。そこからは日本造園組合連合会・宮城野分会青年部長の高野さんが宮城県まで運んできてくださりました。」

青葉区民まつりでは、1×1m・2×2mの箱庭が会場を彩りました。石の高低差やバランスの取れた植栽、小石で川の流れを表現している様子など、とても印象的です。

「会場にいらした皆様は、非常に興味深くご覧になっていました。中には‘購入したい’という方もいらっしゃったほどです。非売品ですのでお売りすることは出来ませんでしたが、確かにこのご時世…大変需要のあるものかもしれないと感じます。」

代表の仰る通り思わず欲しくなるような見事な箱庭。現在マンションにお住まいの方も増え、屋上緑化などの取り組みも増えて参りました。今後実施できる機会の多そうなお取り組みですね。

「そうですね、とはいえ非常に技術を求められる作品…私自身も憧れはあるもののまだ取り組んだことのないものの一つです。大きな風景を小さな領域で表現する技量を持った造園家、いつかそうなりたいものです。」



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