vol.89 北側造成・造園工事
2024/1/23
皆様こんにちは。清水園でございます。
さて、弊社は日頃お客様のお庭の管理維持に勤しんでいるのですが、実は代表自身が自宅・庭の管理維持に関し非常に高い志を持って努めている次第でございます。
本日お伝えしてまいりますのは、そんな弊社代表が平成30年に手がけた自邸の「北側造成・造園工事」についてでございます。
「平成30年の10月半ば過ぎから年明けの2月頃まで…およそ3ヶ月半の期間、取り組んだ造成・造園工事の内容です。我が家は北側に約40mの生垣があったのですが、目の前の川に沿った立地…川を隔てるブロック塀も幅20cm程度で急な法面の為、梯子もかけにくく剪定をするのにもなかなか一苦労でございました。」
コンクリートより内側は代表宅の敷地内。コンクリートの外側に沿うようブロックがH溝で支えられていますがそのブロックは役所のもの…工事の際、景観上石積みをして綺麗にしたかったのですが、やはり市の敷地と河川法という法律もあり、代表お得意の石積みなども行う事は叶わなかったようです。
「石積みは天災にも耐えうる頑丈なものではあるものの、危険性を指摘されてしまうと涙を飲んで解決策を考える他ございません。また、開発許可の問題もございますから、様々な現状や条件などを加味し施工をスタート致しました。既存の生垣は一度植物などを撤去し、1~2m50cm程度の穴を掘って擁壁を作る事と致しました。個人宅としてはなかなか大規模な工事です。」
代表曰く「大型ダンプで20台分の土を出してから、一度自宅の畑で山にしておき、コンクリートを打った後に30台分の土を戻した。」との事…スケールの大きさに筆者も最初は言葉を失いましたが、設置した擁壁は約1m40cm内側にも倒れないよう底盤があるとの事で、その規模感を伺うと土の移動も数kgでは収まらない事も合点がいきます。
「やはり敷地があるからこそ出来た工事だとも自負しております…とはいえ、やはりそこまで手がけた甲斐あり今まで法面で植栽だった部分も綺麗な垂直になり、敷地も随分と広くなった庭に川を作り植栽を行い、コンセプト通りの作品に仕上げることが出来ました。」
施工時点でご自宅は改修前…との事ですが、代表の脳裏には改修後の様子を踏まえて設計されたとの事。
ご自宅の前に流れる川…上流にあたる箇所の前には寝室、下流にあたる箇所の前にはリビングがあり、その間のお風呂とトイレそれぞれの窓からお庭を眺めることが自宅改修後に出来るようになっております。
川を作る際、上流部には尖った石を下流部には削れて丸い石を置くのがセオリーとの事で「寝室から望む川から緊張感を、リビングから望む川から安心感を持って過ごせるように」というコンセプトのもと設計されたそうです。リビングで奥様がキッチンに立たれた際、川の流れるお庭が見えるように…という、代表の粋な計らいが心温まるお庭でもございます。
「給湯器や室外機はなるべく景観に入らないよう、自宅の改装時に別所へ配置致しました。稼働させる際に若干の不便がある時もございますが、やはり日々目にみえるものに対しては最大限の注意と美意識を払いたいものです。」
「先にご紹介した川に使用している石は、上流部に稲井石・鮫川石・三波石、下流部に日高石と種類を分けてございます。尖った石から丸い石で終わるように配置した次第です。また、その他作庭に使用した材料は、弊社の資材置き場にストックしていたものを使用しております。中には高級品もございますが、東日本大震災の際にあいにく欠けてしまったりと、お客様のお庭へ使用するには憚られるものもございましたので…そういったものは自身の庭に使用することと致しました。」
そんな中、厳かな存在感を放つ井戸に関しては清水園・初代の自宅にあったものを再利用されたとの事。秋保石(あきゆいし)と呼ばれる岩1枚から切り出したオーダーメイドの井戸は相当な高級品だそう。
「秋保石は、レンガ・花壇・擁壁・石窯にも使用される‘耐火石’と呼ばれる種類の石です。軽く加工しやすい為、こういった井戸状にも仕上げることが出来るのです。」
初代から引き継いだ井戸と合わせ、13段・5m50cmもの高さに及ぶ層塔もまた非常に印象的です。こちらは石屋さんから以前仕入れたお品との事で、震災で欠けてしまった為お庭に使用されたとの事。
「京都のお寺などでは見かけることもある層塔ですが、個人宅ではなかなかお目にかかれないだろう…という事もあり、他の現場では使用できなかったものの自宅の景観を彩ってもらえ嬉しい限りです。」
他、既存の小屋は解体し薪置き場として作り替え、4~5t程あるサルスベリの巨木もいずれリビングになる予定の部屋から望める位置に移植されたとの事。
「この辺りからは、個人宅での施工ではお目にかかれないような重機が出入りする事となります…面積も広いですから2箇所で分割し工事し、土を出し入れ・コンクリートを打つなど作業を進行して参ります。」
敷地の奥の方から庭を作りながら、次第に手前へ土を運搬するように施工を進められたとのこと。本来であればある程度景石や石像物を設置してから植栽を行うのが順当との事なのですが、細長い敷地面積の場合そのようにすると重機が入れなくなってしまいます。その為、完成予想図を想像しながら奥から順番に庭を作っていくそうです。
「ブロック・土留まで完了すると、やはり全体的にすっきりとした印象に仕上がりますね。ブロックを一段組んで板土留を設置、足りない土は大型ダンプで運んで参ります。」
ダイスギを植える予定地に竹を仮差ししておき、川用の水を溜めておく為の井戸を設置、景石も運搬して参ります。ダイスギも無事に植えられ、高さと奥行きのある美しい景観のお庭に仕上がりました。
「お客様のお庭だけでなく、私自身の自宅の庭が‘こんなお庭があったら素敵だよね’と胸を張って言えるような立派な庭を作りたかったのです。もちろん、それに見合う建物もそうですが…景色を作るのが我々庭師の仕事。体現することでお客様に夢を与え続けたいと思う所存です。」