コラムColumn

vol.43 春期剪定

2022/5/24

皆様こんにちは。清水園でございます。

街中に見かける緑が初夏の日差しを受け、その煌めきが美しいこの頃…造園に携わる方々にとっては、繁忙期とも言えるこの頃でございます。

と申しますのも…それら伸び盛りの緑を剪定するのも造園家のお仕事の一つ。本日は「春期剪定」についてお話しして参りたいと存じます。

「よく、お客様から’剪定の時期はいつが良いか’と尋ねられることがございますが…実は一年を通して剪定は行うもので、時期によって剪定の仕方が異なるのです。」

植物の種類にもよるそうなのですが、中でも落葉樹に関しては春の剪定がおすすめとの事。

「落葉樹は5・6月に一番芽(新芽)が出て参りますので、良い方向に伸びたものを残し、その他を剪定します。

この時期に剪定を行うことで、夏頃見た目もすっきりとしていますし、光合成が抑えられ植物そのものの成長が抑制できますから、秋に剪定しなくても済むような状態に整える事が出来ます。」

なるほど…植物の生態に則り、効果的に剪定を行うのですね。

「そう、ただ気をつけなければいけないのは‘短くする・小さくするだけではいけない’という点です。」

ただ枝葉を落とせばいいだけではない…どういう事なのか、代表から見せていただいたお写真で合点がいきました。

剪定される前とされた後のモミジを見比べてみますと、全体の高さは変わっていないものの、モミジの向こう側に青空が眩しく透けて見えます。まるで遮光カーテンからレースカーテンに取り替えたように清々しい印象です。

「まさに、上の丸いラインはそのままに、隙間を開けるようにして剪定しております。こうすると風の通りも良くなり、虫などもつきにくくなります。日当たりも良くなり元気に育ってくれる…そのような剪定の方法です。」

作業状況を拝見すると、意外にも相当な量の枝葉を剪定していることが分かりますが、「切ったのか切っていないのか分からないほど」自然な仕上がりです。

「剪定する量も実は大切な点で、剪定しすぎると‘木が怒る’のです。光合成が足りず栄養補給が出来なくなってしまうので、葉がさまざまな所から出てきて著しく樹形が悪くなってしまいます。ですので、樹形を一定の大きさに保ち剪定するという事が必要となります。」

剪定においてもこだわりを持つ代表、これまで頭を抱えた現場などはあったのでしょうか…。

「自身が管理している庭でしたら、剪定するのに難儀しないのですが…強いて言うなら、他の方が管理していた庭を引き継いだ時…でしょうか。

切り口があまり綺麗でない状態での剪定など、苦労する事が多くあります。

木は美しく小さくする事が大切ですが、それを分からずに切ってしまう方がいらっしゃることも事実です。

弊社は年に2・3件、ご紹介で新規のお客様のお庭を手入れする事があるのですが、それまでになかなか良い造園家に巡り会えなかったのか…仕上がった後に泣いて喜んでくださる方もいらっしゃいます。以前にも何度かお話し致しましたが、庭は作庭を終えてからがスタートなのです。植物は生き物ですから…手入れ次第で良くも悪くも変化していきます。」

モミジのお写真を拝見した後、異なる現場の着工前・着工後のお写真を見せていただきました。たくさんの種類の植物が共存し、まるで森のような印象のお庭です。

「ここは植物を植えてから7年目…まさに森のイメージで植物たちが植わっています。モミジ2種・オオテマリ・サツキ・ロウバイ・シラカシ…7〜8種類でしょうか。

下草も含めると15種類程度ございます。前回お話しした現場はモミジだけでしたが、これほど種類のある現場は植物同士の関係性を意識しながら剪定を行う必要がございます。

例えば…一つの空間に同じ身長の人が隣り合わせると、どうしても肩がぶつかってしまいますよね。そうならないように…互い違いの身長が重なっていくように枝を切っていきます。」

確かに…着工後のお写真を拝見すると、それぞれの植物たちの‘顔’がはっきりと見える印象です。

「そう、また高木を剪定することで日当たりも良くなりますから、低木も枯れずに共存できるのです。木の種類も多く、それに伴い影も多いですから…個人的には勢いよく剪定ができる現場ですね。」

このお庭、代表自身が作庭されたとの事。森のように植物をたくさん植える事で隣のお家も見えず、また滝もあるので水の音が聞こえ、鳥たちの囀りに癒される…都会の喧騒を忘れられるお庭です。

「このお庭、元々は法面だった場所に石を積み小さな木々を植えました。木というのは凄いもので…石の厳つさを一気に隠し、全体を緩和してくれるのです。

また、苔も生えて石そのものの印象も柔らかくなります。植わっている木々なのですが…実は片枝だったり畑でも邪魔になるような、いわゆる良い木たちではありませんでした。ですが、森、まさに自然に植わっているようなイメージの植栽には最適です。

作庭の段階では将来伐採することを考えながらたくさん植えますが、自然の競争の中10年単位で自然と枯れたりお互いにぶつかって窮屈になる木もございます。

そういったものは‘ご苦労様でした’と伐採してあげることで、他の木との関係性も保たれます。様々な木々が共存する中で、調和を保つのも剪定の役割の一つですね。」

こちらのお庭は春先一度の剪定との事ですが、庭を綺麗に保つには年に2回の剪定が理想的との事。

「剪定の適正回数はお庭により異なりますが、木は育つものの庭自体は大きくならないので…庭に対し理想とする大きさに維持する事が必要です。

また、木は人と同じで‘教育’の必要もございます。好き勝手に伸びてしまわないように、剪定をすることで木々の行動制限を行うのです。

陽の当たる方向を意識しながら、影を作りたい方向に伸ばすものを残し、それ以外を落としてやる…といった具合でしょうか。

そのように手入れする一方で…思いもよらない所から自然と新しい木が生えてくる、ということもございます。‘こんな所から…’という嬉しい発見です。同じ現場を長年手掛けていると、木々の良いところを育てていくと言うのもまた楽しみの一つで、現場を通して庭の変化を楽しんでいる次第です。」

木々が栄養を蓄える夏に向け、春期剪定にて木々の健やかさを保つ事…それは庭を綺麗に保つだけではなく、木々の成長と変化にとってもかけがえのないお仕事なのですね。



着工前:春の1番芽は清々しい季節を感じますが、同時にうっそうと茂るので、葉っぱがうるさい感じになることも否めません。
完了:樹形はそのままで透かすことにより今から伸ばしたい枝などに日が当たるようになりいい方向に伸びていくように癖付けをしていきます。
今年伸びただけでも結構な枝葉の量があるのが シートの上にあるので解ると思います。
完了:内側を透かすことにより光が差し込むようになります。よく言えば木漏れ日が差し込むとでも言えるでしょうか。
着工前:同様に奥行きが全然見えないくらい生い茂っています。
完了:ただ、暗いだけだったのが 日が差し込み枝葉が風でゆらゆら揺れるようになり、木漏れ日がちらちら入り、青空も透けて見えます。