vol.55 若林区D邸植栽工事
2022/9/27
皆様こんにちは。清水園でございます。
地域によってはまだまだ暑い日が続いているものの、暦としてはすっかり秋でございますね。「食欲の…」と続けたくなりますものの、やはり秋といえば「芸術」を思うこの頃でございます。
執筆者も感性を磨く為様々な芸術…絵画・写真・音楽・文学などに触れるよう心がけておりますが、直近では拝見した絵画が同じ素材を使っているにも関わらず、作者によって全く異なる表現が生まれることに感動を覚えた次第です。
さて、本日お伝えいたしますのは、そんな「十人十色」といった表現の豊かさを思い出させてもらえるような現場のお話でございます。
現場は平成22、23年頃に代表が手掛けられた「個人宅のお庭」。施主様は元々は代表のお父様のお知り合いとの事。
「そのお宅は、平成20年にご自宅の建物の建て替えを行われました。お庭に関してはハウスメーカーの方に併せてお願いされたそうなのですが…植栽・縁石がお気に召さなかったようで、私に依頼が来たという次第です。」
施工前のお写真を拝見したところ、高さを揃えた植栽や均等な縁石は整然とした印象を与えるものの、少し寂しげな印象が否めません。
「元々が広大な敷地面積のお庭…というわけでもなく、犬走り(建物の軒下など、外壁に沿って地面をコンクリート敷きにしている箇所)もございますから、当初の状態ですと奥行きは1m20〜30cm程度…移動するにも狭く感じてしまいます。
また、このお宅の場合基礎高が50cm程度になっているので、お部屋からお庭は必然的に見下げるように設計されております。
椅子生活であればそれも大きな問題ではないのですが、あいにくお庭に面したお部屋は掘り炬燵…低い視点からお庭を眺めるような状態です。
ですから、お庭も背の高い植栽や置物などをセットしなければ、お部屋からお庭の景観を楽しむ…ということは叶わないのですね。」
代表からお話を伺う度、部屋から眺める「視点の先」を意識することは庭づくりに欠かせないものだと言うことを思い起こさせられます。
「空間の特徴を生かしながらも華やかさを持たせるにはどうすれば良いか…なかなか考えさせられました。施主様は以前から私の仕事ぶりをご存知でお願いしてくださったこともあり、期待を裏切ることは出来ません。
こういったお庭を作る際、使用する材料などを見てもらったり、打ち合わせをして施主様にお伝えすることはあるのですが、いわゆる図面は描かずに…自身の感性を信じて一気にお庭を仕上げていきます。」
完了したお写真を拝見すると、お庭は一気に華やいだ印象に変化していました。灯籠や水鉢をアクセントに地面には飛石が加わるなど、要素は増えているものの施工前よりもずっと広いお庭のように感じられます。
「当初、歩きにくさを感じさせていたのは縁石があったことも原因の一つかと思われます。縁石を外し築山を作り飛石を置くことで実際は以前よりも狭くなったものの…灯籠や水鉢、植栽などで高低差を作ることで、庭の中に高低差が生まれすっきりと見えるように仕上げました。」
この水鉢もポイントのようで…実際お茶の作法として使用する際には、本来もっと低い位置に配されるとの事。ですが、あまり低い位置に設置してしまうと植栽や灯籠などとの相性や全体のバランスが損なわれてしまうため、‘お部屋から見えた時とお庭に出た際の導線を考えて配置’されたそうです。
「お約束やセオリーというものはどのような業態にも存在しますが、‘ここでのこの物の役割は何か’というところを冷静に考えた時に、答えというのは自然と導かれるように思います。」
この庭の中での水鉢の役割としてはバードトスのように鳥が水浴びをしに来るので、目を楽しませてくれる特別な添景として、活躍してくれているように感じます。
「また、こちらのお宅はお庭だけでなく門を入って玄関に向かわれるまでの場所もなかなか悩ましい箇所でありました。玄関の目の前にマンションがあるのですが、目隠しなども特になく出入りの際どうしても気に掛かってしまいます。一瞬のことではあるものの、やはり‘見られている気がする’というのは日々を快適に過ごすのには雑音です。」
通路幅を広く取られていたので、植栽幅はどんなに広い所でも35cm程度。大きな木を植えたくても根が入らない為、代表は細い木をなるべくたくさん植えられたとの事。
「モミジ・シラカシ・モチの木・ツバキ・サザンカ…その他は低木を少しずつ植えてございます。急に大きくなる…というわけでは無いものの、成長の早い木を選んでいます。伸びてきて上の方に葉がつけば目隠しにもなり、またトンネルのようで歩くのにも邪魔になりません。」
門を入ってすぐの箇所に窓が3枚ありますが、そこにはロールスクリーンを付けておられるようで、夜になると植栽した紅葉のシルエットが風に揺れ、大変美しいとの事です。
「家に居ながらにして自然を感じられるような仕上がりに致しました。真っ直ぐな木ではなく曲がった木を選び、また植栽の周りに置いた石も様々な種類の石を使用し、それぞれの色や質感、大きさのバランスを見ながら景色を作り上げています。
いずれも他の現場から出てきた石でリサイクル品ですが、その時とは全く異なった置かれ方と表情をしています。
100人いて100人同じ石の置き方にはなりません。勿論、本を開けばセオリーは書いてございますが現場に正解のセオリーはありません。バランスや立体感、前後や出入りを意識しながら、景色を描きます。」
まさに‘十人十色’、造園家の個性によって生まれるお庭もまたそれぞれなのですね。