vol.45 庭石移設
2022/6/14
皆様こんにちは。清水園でございます。
これまで、石積み・植栽・他様々な現場のお話についてお届けして参りましたが、本日お伝えいたしますのは「なかなかありそうで無い」そんな現場のお話です。
「いわゆる‘庭石移設’なのですが…私が経験した現場の中でも‘最も大きな庭石移設’でございました。
高さ2メートル・幅3メートル、その重さ25トンもの巨大な庭石です。過去4回程、16〜20トンの石を動かしたこともございますが…そもそも5トンクラスの石を動かすことのある人が1000人に一人いるか居ないかでは無いでしょうか。この経験も大変ありがたいことです。」
現場は、東北福祉大学の寮の敷地内。その年は新しい寮が一棟増築されるとの事で、玄関前となる場所に庭石を移設する運びとなったそうです。
「庭石は、鮫川石という福島県で採れる石で三代名石のうちの一つとされています。ここ20年採掘禁止になっておりますので、今流通している石に限り、庭を壊さない限り出てこないであろう貴重な石です。
数十年前、福祉大が購入し石置き場に置かれていたものを当時私が運び入れました。その大きさと存在感はもちろんのこと、鮫川石特有の青さや、雨に濡れると艶やかでとても美しい表情を見せてくれます。
置く場所がなければ宝の持ち腐れですから…せっかく場所もありましたので、持ち込んだ次第です。」
それにしても、一大決心をしなければここまで大きな石は動かせないことでしょう…代表曰く「普通の大型トラックでは積んで走れない」程のスケールとの事。
「トラック・クレーン・ワイヤー…全てを完全な状態で整えておかなければ絶対に動かすことはできません。ワイヤーが細く吊れずに切れてしまった場合、道具の揃え直しでその日の機械や人員などで一日が水の泡です。」
満を辞しての庭石移設、まずは石にワイヤーをかけるところからスタートします。太いワイヤーを通すために、そのワイヤーに細いワイヤーをかける…といったような一手間・二手間が必要となって参ります。
「石を吊るワイヤーだけでも100kgありますから、人一人では動かせません…60トンクレーンで石を傾けワイヤーをなんとかかけていきます。」
追い討ちをかけるかのように作業当日は雨…滑りやすい鮫川石の扱いは特に気をつけなければなりません。
「10〜20トン程の石ですと、ワイヤーに荷重がかかり圧力に耐えきれず弾け飛ぶ…というケースも過去にございました。車の窓ガラスもいとも簡単に割れてしまう程…ワイヤーを保護するなどして、慎重かつ迅速に作業を進めて参ります。」
建物の仕上がりを想像しながら、なんとか無事に移設も終えられたとの事…このクラスの石ですと、1m動かすのも15m動かすのも同程度の大変さである事は容易に想像がつきます。
「とはいえ、やはり象徴的な石ですから…こういった形で日の目を見るのは造園家としても喜ばしい限りです。
移設後は看板を石にはめるとのことで、サンダーを使用して石を掘り進めていきました。5cm程度の賽の目に切りノミでとっていくのですが…この作業がまた骨が折れました。2人がかりで3日かけ掘り上げました。色々な意味で貴重で思い出深い現場でしたね。」
「なかなかありそうで無い」…まさに稀有な庭石移設でございました。