vol.144 移植【前編】
2026/7/13

皆様こんにちは。清⽔園でございます。
今回のコラムでは、「移植」についてお話しさせていただきます。
前編:一本の木を動かすための準備と職人の判断
⽊の移植は、ただ⽊を掘り上げて別の場所へ運ぶだけの作業ではありません。そこには、⽊の⼤きさ、根の張り⽅、枝の広がり、運搬経路、移植先の環境までを考えた、⾮常に繊細で⼤掛かりな⼯程があります。
今回の現場は、もともと⽊の仮植え場として使われていた場所でした。しかし周辺に建物が増え、⽊を植える場所が少なくなったことで、次第にその役割を終えていました。
さらに野球場の駐⾞場不⾜もあり、この場所にある⽊々を整理し、駐⾞場として活⽤することになりました。対象となったのは、ケヤキをはじめ、複数のクヌギやサクラなど。現場の⾵景が⼤きく変わるほど、多くの⽊を扱う作業となりました。
なかでも⼤きな存在だったのがケヤキです。⽴っている状態ではそこまで⼤きく⾒えなくても、実際の⾼さはおよそ15メートル。さらに根を含めると、全体の⻑さはそこから1.5メートルから2メートルほど⼤きくなります。移植するためには、この⽊を掘り上げ、道路を⾛⾏できるサイズに整え、トラックへ積み込まなければなりません。⽊は⾃然の形のままでは運べないため、枝の幅や全体の⻑さを詰める必要があります。移植先までの道路事情や荷台の⼤きさに合わせて、どこを残し、どこを切るのかを判断することが、移植作業の重要なポイントになります。
今回は宮城県から岩⼿県への運搬も必要だったため、⽊の形をそのまま残すことはできませんでした。できるだけ美しい姿を保ちたいという思いがあっても、道路を⾛るためには、どうしても⼀部を切断しなければならない場⾯があります。バランスの取れた枝であっても、運搬の妨げになる場合は思い切って切る必要があります。
移植とは、⽊を傷つけずに運ぶ作業であると同時に、運ぶための形へ整える作業でもあります。そこには、⽊の
将来の姿を想像しながら、現実的な判断を下す難しさがあります。
移植前には、まず剪定を⾏います。重機で掘りやすくするために下枝を切ったり、作業中に枝が折れないようロープで保護したりします。また、根を切ることで⽊が吸い上げられる⽔分の量は少なくなるため、枝を減らして⽔分の消費を抑えることも⼤切です。
枝を残しすぎれば⽔が⾜りずに枯れる危険があり、切りすぎれば移植後に貧弱な印象になってしまいます。倒した後でも⽊の形が分かるように、硬い枝を落として柔らかくし、現地でロープを使って絞れるように整えていく。こうした剪定の加減には、経験と勘が求められます。
移植先の確認も⽋かせません。今回の移植先は⾮常に広い敷地で、全体では1500坪、ご⾃宅のお庭前だけでも900坪近くあるほどでした。地図で⾒ているだけでは分からない広さや⾼低差、重機の⼊り⽅、⽊を植える位置などを現地で確認し、移植できる⽊をリストアップしていきます。広い敷地であっても、どこにでも⽊を植えられるわけではありません。
⽊の⼤きさ、成⻑後の姿、周囲とのバランスを考えながら、移植後に⾃然に馴染む場所を⾒極める必要があります。
実際の掘り取り作業では、順番も重要です。⼤きな⽊から先に掘ってしまうと、⼟を置く場所や重機の動線がなくなってしまうことがあります。そのため、まずは⼩さな⽊から掘り起こし、作業スペースを確保していきます。掘った⼟をどこに置くのか、クレーンをどこに⼊れるのか、トラックへどう積み込むのか。移植作業は、⽊⼀本だけを⾒るのではなく、現場全体の流れを考えながら進める必要があります。
掘り取りの前には、「根切り」という作業も⾏います。地中に伸びている太い根を、あらかじめ⼤きく切っておくことで、掘り上げる際に根元へ向かって根が引っ張られ、根鉢が崩れるのを防ぎます。根を切る場所や⾓度を間違えると、⽊に⼤きな負担がかかるため、慎重な判断が必要です。
その後、掘り取った根鉢には⿇布を巻き、紐で抑える「たる巻き」を⾏います。これは、⼟が膨らんで根が切れたり、運搬中に根鉢が崩れたりするのを防ぐための⼤切な⼯程です。
さらに、根鉢の下を切り離し、紐を底に通して固定する「根巻き」を⾏います。根鉢全体を植⽊鉢に⼊っているような状態に安定させることで、吊り上げや移動に耐えられる形にしていきます。根鉢は⼤きければよいというものではありません。⼤きすぎると重さが増し、根が⽀えきれず崩れてしまう可能性があります。⼩さすぎれば⽊が⽣きるために必要な根を失ってしまいます。抑えられるぎりぎりの⼤きさを⾒極めることが、まさに職⼈の経験が問われる部分です。










