vol.130 うろこ積み【後編】
2025/10/13

今回使用した石は、現場の近くに仮の石置き場を設け、大型ダンプを使ってそこへ運び入れました。その後、「モッコ」と呼ばれる石運搬用の道具をユニックの荷台に敷き、モッコをユニックで吊り上げ壁越しの法面に4トンユニック車で総量およそ50トン分の石を現場に搬入しました。とはいえ現場の制約上、重機の使用はできなかったため、大型ダンプ6台分の石をすべて一輪車で少しずつ運ぶという、手間と時間のかかる作業が続きました。
また、モルタルも使用しましたが、いわゆる「空練り」と呼ばれる、水を加えないセメントと砂の混合物です。これは、草の生育を防ぎ、下地を固める目的で用いられます。空練りそのものは石を固めるものではありませんが、後から水を加えることで硬化し、面で荷重を受け止める構造となり、全体の安定性を高めてくれます。
2日間にわたる作業で全体のおよそ半分まで進行しましたが、ところによっては高さを出すために何層も重ねる必要があり、石の数にして何万個という、膨大な量の石を手作業で積み上げました。作業は地道で骨の折れるものでしたが、一つ一つの石が形づくる風景は、完成が近づくにつれて徐々にその姿を現し、現場に立つ私たちにも静かな感動を与えてくれます。
石を積むうえで最も大切なのは、荷重の分散です。たとえば、2つの大きな石の上に複数の小さな石の荷重がかかるように配置することで、荷重が一点に集中せず、全体にあみだくじのようにバランスよく重みがかかるよう工夫しています。大きな石ばかりでもだめで、小さな石ばかりでも成り立ちません。大小の石を組み合わせながら、自然な積み方を追求することが、美しく、そして機能的なうろこ積みを実現する鍵となります。
今回のうろこ積みは、今まで手がけた石積みの中でも特に地味で、労力のかかる作業でした。しかし、完成した壁面を眺めると、その地味さの中に確かな技術と誇りが詰まっていることを実感します。小さな石が一つひとつ積み重なって、やがて大きな風景を形づくっていく。その様子は、まるで日々の努力が実を結んでいく人生のようにも思え、なんとも感慨深いものがありました。
このような施工は、そう頻繁にあるものではありませんが、今回の経験は、技術的にも精神的にも、私たち清水園にとって大きな財産となりました。これからも、一つ一つの仕事を丁寧に積み重ねながら、皆様により良い技術と景観をお届けしてまいります。