コラムColumn

vol.132 T市C邸景石・園路工

2025/11/10

皆様こんにちは。清水園でございます。
今回のコラムでは「T市C邸 景石・園路工」についてご報告させていただきます。

25年ほど前、ガーデニングブームが全国に広がり、当時は「枕木」が庭づくりの新しい定番素材として広く取り入れられました。枕木は本来、鉄道の線路の下に敷かれる資材で、非常に硬い木に薬剤を加圧注入して腐食を防ぐ加工が施されており、頑丈で風合いも良く、庭の素材として人気を集めましたが、やがて薬剤に含まれるヒ素などの化学物質が問題視され、使用が制限されるようになりました。それに伴い、耐久性も著しく低下し、かつてのように長持ちする枕木はほとんど流通しなくなりました。さらに、質の良い木材自体が減ってきたこともあり、現在では本格的な枕木は入手困難となり、鉄道でもコンクリート製の枕木が主流となっています。

もちろん、今でも良質な枕木は存在しますが、価格が高く、しかも個体差が大きいため、施工後20年も経つと腐食や劣化が進み、どうしてもリフォームの時期が訪れます。庭を大切にしてこられた施主様にとっては、その際に「また枕木で作り直すか、あるいは別の素材に置き換えるか」という大きな選択に迫られるのです。今回のC邸の改修では、施主様と相談のうえ、枕木にこだわらず、耐久性と風合いを兼ね備えた“石”を選択することになりました。また、砂利を敷いていた通路は「洗い出し仕上げ」のコンクリートに変えることで、歩きやすさと柔らかい風合いを両立させました。

施工の流れとしては、まず大谷石や白磁石を土留めとして据え付け、その後、山砂に砂利とセメントを混ぜて塗り均します。コンクリートを塗り終えた段階で遅延剤を表面に塗布し、一晩置きます。翌日、表面を水で洗い流すと、内部の砂利が浮き出て「ジャリジャリ」とした独特の質感が現れます。通常のコンクリートならツルツルの表面のまま仕上がりますが、洗い出しを施すことで、柔らかさや温かみを感じさせる仕上がりになるのです。昔は、コンクリートが少し固まり始めたタイミングで水洗いをしていましたが、気温や乾燥の具合によって仕上がりに差が出てしまうことが多く、安定しませんでした。現在は遅延剤を用いて、上層1cmほどを固まらない状態にし、下層をしっかりと固めることで、均一で美しい仕上げを実現しています。

今回の工事では、庭の通用口の階段も併せて改修を行いました。石段の下から土が流れ出ないように、大きめの石を地中に埋め込み、しっかりとした土留めを行いました。これにより、安定感が増すだけでなく、長い年月を経ても崩れにくい仕上がりになります。また、門周りの改修も重要なポイントでした。こちらも枕木の土留めが腐ってしまっていたため、六方石を用いて作り直しました。六方石は独特の形状と風合いを持ち、施工直後はどうしても存在感が強く見えますが、植栽を加えることで自然と調和し、庭全体の中で落ち着いたアクセントとなります。狭い場所でも使いやすく、腐ることがなく、セメントを使わない積み方が可能なため、将来組み替えたり再利用したりできる点も大きな利点です。

六方石はもともと茶色を帯びた石ですが、年月を経るうちに内部の鉄分が酸化して黒っぽい色に変化していきます。この「サビ」と呼ばれる経年変化は、人工的な素材では決して味わえない魅力であり、自然素材ならではの楽しみのひとつです。コンクリートやレンガ、枕木など人工的な素材は、完成直後が最も美しい状態ですが、時が経つにつれて汚れや劣化が目立つようになります。一方で、自然の素材は年月とともに風合いを増し、むしろ庭をより深みのあるものに変えていくのです。

こうした考え方は、大工の世界でも共通しています。木材を扱う建築でも、近年は接着剤や修正材を多用するケースが増え、本物の木をそのまま使った家は少なくなりました。しかし近年では、化学物質が人体や環境に与える影響を懸念する声が広がり、再び自然素材への関心が高まりつつあります。本物志向が少しずつ戻りつつあるのは、時代が改めて「自然に寄り添う暮らし」を求め始めている証でもあるのかもしれません。

そして改めて強く感じるのは、庭という空間が単なる造作物ではなく、時間とともに育まれ、暮らす人々とともに成長していく「生きた風景」だということです。木や石は四季の移ろいの中で姿を変え、光や風、雨を受けて新たな表情を生み出していきます。そこに人の手が加わることで秩序が生まれ、自然の営みと響き合うことで、庭はより豊かな景色へと変化していきます。庭があることで、日々の暮らしに安らぎや潤いがもたらされ、そこに集う人々の心を和ませ、時には語らいの場や子どもたちの遊び場ともなります。庭づくりの本当の価値は、完成した瞬間の美しさではなく、その後何十年にもわたって「育ち続ける空間」にこそあります。お客様の暮らしに寄り添い、庭が年月とともに深まっていく過程を支え続けること。それこそが私たち清水園の使命であり、誇りであると考えています。これからも一つひとつの施工を大切に積み重ね、次の世代へと受け継がれていく庭づくりを目指してまいります。



完了
階段洗い出し 作業状況
花壇改修 作業状況
着工前
階段洗い出し 作業状況
花壇改修 作業状況
階段洗い出し 作業状況
花壇改修 着工前
完了