vol.111 小さな石積み
2024/10/28
皆様こんにちは。清水園でございます。
本日お伝えして参りますのは、’小さな石積み’についての内容です。
今回は、代表邸のお庭の改修に伴い、以前から前を通る度に気になっていた古く汚いブロック部分を解体して石積みをした際のお話です。
石積みを行う際には、使い慣れた材料を選ぶのか、新しい材料を選ぶのかという材料選びから始まるのですが、今回は通常であれば砕石にする石を用いて石積みをするとどうなるのか、という実験的な意味合いも込めて割栗石を選びました。一般的な用途としては、路盤の下に敷いて地盤を固めるために用いられる石で、比較的安価な石になります。
大きな石、小さな石、共に良いところがありますが、小さな石で問題になってくるのが一番上の天場の石です。長い間管理していると、どうしても踏んだり、歩いたりするので取れやすいのですが、これを取れないようにしっかりと噛ませるのが石積みの難しいところです。
形としては、野面積みという積み方を用いました。野面積みとは、自然石をそのまま積み上げる方法のことで、綺麗に積みすぎると、石張りと変わらなくなってくるため、絶妙な調整が必要になります。
普段、丁張りはしないのですが、野面積みとなると、天場とラインの真っ直ぐさが重要なので、丁張りと水糸が必要になってきます。また、今回は割栗石という比較的小さな石を使っているので、噛み合わせが非常に難しくなります。以前のコラムで紹介した版築では、鳴子石で今回より大きめの軽石を用いたので、石1、2個で積むことができますが、今回は3、4個で積む必要があり、また、だいたい同じようなサイズ感なので、目地が会わないよう互い違いに積むことが難しい部分でした。
石積みの一段目は地盤となる重要な箇所であり、地盤の高さを出さなければアスファルトをする際に穴を掘って根っこが出てしまうと強度が弱くなり大変なことになるので、一番下の高さだけはきちんと水糸を張って地盤より低く揃える必要があります。
また、水糸を張る杭は、途中でずらしてしまうと全てがずれてしまうため、はじめに杭を立てた場所のまま、石積みが終わるまで残しておくことを想定して進めていく必要があります。石積みの際に杭が邪魔になることもあるので、そこも想定した上で作業を行なっています。石積みの距離的には大した長さではないですが、結構な時間と労力がかかりました。
野面積みの最も難しい点は、天場を全て揃えることです。天板の下の石が天場よりも高いと、明らかにはみ出てしまいます。低い石にモルタル等を加えて高くすることは簡単ですが、高い場合には叩いて落とすしかありません。その際、下の石を叩いてしまうと動いてしまうので、上の石を叩きながら整形し、石を並べていきます。また、高さというのは、元々のお庭の地盤であり、植えられている木の根元あたりが基準になります。
天板に使う石は事前に平らな石を選び、天場用として置いておき、平ではない石を下の石に使うという、材料の振り分けも石積みにとって必要な作業です。
作業を両端から進めていくと、最後は真ん中に穴(=虫歯)ができます。そこにハンマーで叩き、石をギリギリと入れ込むと、丈夫な石積みになります。
石積みの強度は、石の噛み合わせによって変わってきます。石が面と面で当たっていれば丈夫ですが、点でくっついている場合には、地震等で揺れた際にポンと外れてしまうことがあります。また、全てがはまった完成状態の石積みは全体に圧力がかかって、重力と摩擦の力でとても丈夫ですが、それがない途中の段階では非常に脆い状態です。
石積みの良いところは、近くで見ると凸凹していても、遠くから見ると、不思議とラインが揃って真っ直ぐに見えるところです。石積みは自己満足の世界だとよく言われます。手間暇かければ綺麗ですが、手間暇をかけて綺麗に積めば積むほど、石積みではなく石張りに見えてしまいます。そのため、綺麗にしすぎても雑すぎてもだめだという絶妙な調整が難しいです。庭師にとって永遠のテーマと言っても過言ではありません。
また、石積みは完成した時点から苔がのってきたり、風化が始まったり、色が変わって風情が出できたりと段々と良くなっていきます。コンクリートでは完成した時点から段々と汚れて劣化していくので、この点が空積と練積の違いです。
今回、実験的な意味合いも込めて、その辺で簡単に手に入る石での小さな石積みでしたが、思ったよりも使いづらかったというのが正直な感想です。ただ、現在ではクレーン等の重機を使って石積みを行える人が少なくなってきており、このタイプの石積みが主流になってきていることも残念なことです。若い庭師が石積みを行う機会が減っており、仕事として石積みをすることが難しくなってきているように感じます。どの分野についても同じことが言えると思いますが、素晴らしい技術や伝統を残しつつ、新しいものを取り入れ、より進化した状態で次世代へ継承していくことが今の私たちに課されている難題であると感じます。