vol.10 仕事道具-ハサミ
2021/4/16
皆様こんにちは。清水園でございます。 前回お話させていただいた、現代美術家の栗棟美里さんに制作していただいたコラボレーション作品。代表が撮影した刈込鋏と手ハサミの写真が下地となっているのですが、代表がなぜハサミを題材にしたのか…今回は、そんな「ハサミ・仕事道具への想い」を代表に伺うことに致しました。
「文房具にしても何にしても、好きなものしか持たないようにしています。それはハサミも同じで、よく使用しているハサミは5本。雑誌を見ておすすめと書かれた商品もつい購入してしまうのですが、使用してみて’違う’と思ったものは、一度しか使わずお蔵入りになってしまうこともしばしばありますね…」
造園の仕事で、やはりハサミは多用する道具の一つ。枝を切る・紐を切る…我々の生活においても必需品です。多少なりと毎日使うので年間200日は使用しているのではないか…と代表は語ります。
「また、ハサミはやはりかけがえのない’仕事道具’。定期的に砥石で刃を研ぐのですが、当然のことながら使えば使うほど研いで短く薄くなってしまいます。」
今回お話を伺うために、代表からハサミの新旧を比較して見せていただいたのですが…使い込んだハサミの先端が非常に鋭利なことに驚きます。
「仲間内でもここまで尖らせるくらいまで使う人はいないかもしれません。最終的にはハサミの内側が薄くなって、受け刃が重ならなくなるまで使い込んだものもございます。」
造園で使用するハサミにも様々な種類があり、手ハサミ・剪定鋏・刈込鋏…と多岐に渡りますが、やはり目的に応じ形状が異なる中で道具により得手不得手もあるそうです。
「大まかにご説明すると…剪定鋏は太い枝葉も切れますが細かいものは切りづらく、手挟は先が尖っているので細かいものは切りやすいですが太いものは切りづらいです。先程、砥石で刃を研ぎ手入れするお話をしましたが…剪定鋏を使い込み先を尖らせると、剪定鋏と手ハサミの中間のような役割を果たすことができるんですね。それなりに太い枝も切ることが出来ますし、細かい部分にも刃を入れられます。手入れを通して道具をより自分自身のものとして使いこなす、そういったところも大切と考えます。」
なるほど…手入れするからこそ仕上がり愛着が出て馴染む道具も生まれてくるのですね。とはいえ、ハサミも刃が薄くなってくると扱いが難しくなるような印象がございます…
「そうですね。ハサミが薄くなってくると、使い手の技量が出てくるのは間違いありません。ハサミの使い方と研ぎ方。この二点が肝になってきます。」
枝葉を見たときに、手持ちのハサミで切れるか切れないか、違うハサミで切るか…この見極めを出来るか出来ないかによって、造園家としての技量が問われるのだそう。また、やはり研いで手入れされたハサミは木に刺さりますし、研いでいない刃は木に刺さらず滑って欠けたり折れたりしてしまうことも。研ぎ方に関しても薄くなった刃は角度を変えて研ぐなどコツが必要とのこと。
また、やはり仕事道具としてのハサミということもあり、受け継いだハサミなども所持されているそう。
「先代や初代から受け継いだものがいくつかありますね。刈込鋏は、仙台市伝統の鍛冶屋さんだった’村上’のもの。昭和39年までは名号を打たず、それ以降は打つようになられました。持ち主の名前も入れてくれますので、私の名が刻まれたハサミもいくつかございます。」
代表曰く、「色々使用しましたが、刈り込みは村上だけ」との事。決して重すぎず、扱いやすく、約27年間使用されている中で、一度も刃が欠けたり折れたり…といったトラブルも無かったそうです。
一方で、いい仕事をする鍛冶屋さんだからこそのジレンマもあるそうで…
「当然のことながら、良いハサミは永く、ともすれば一生涯使うことが出来ます。しかしながら、良いものを作れば作るほど…商品は長持ちして売れなくなってしまうことも事実です。当時は村上さんに道具を打ってもらっていましたが、残念ながら平成15年で廃業され、今や買いたくても買えない名品になってしまいました。」
代表は、村上さんが廃業する前に刈り込み鋏2本と手ハサミをストックとして作ってもらったそう。一般の刈り込み鋏は七寸(約21cm)のものが多いそうなのですが、村上さんの刈り込み鋏は五寸(約15cm)と五寸五分(約16.5cm)と短めで軽く小回りの利く仕様です。
「津軽型の剪定鋏も刃を研いで手入れしますが、津軽型の特徴として刃が薄く、手の衝撃が少なくなるよう二段バネになっています。刃が短くなる度に、バネが当たらないようにバネも切りながら使っていたのですが…最終的にバネの遊びが無くなってしまうほどに刃が短くなって使えなくなったのも良い思い出です。」
仕事道具としてのハサミ…丁寧に使い込まれていることが写真やお話からも強く感じられます。
「ハサミは造園家にとって人物評価に繋がります。何かの拍子に誰に見られても恥ずかしくないよう、常に美しく保つこと…そこは私にとって信念です。」
ハサミ・仕事道具への美学とこだわり、一造園家としての代表の姿勢が伝わります。また、そんな代表が最後に見せてくれたのは’生け花’用のハサミでした。
「趣味でお花を生けるのですが、この花のハサミは先生の形見を受け継いだものです。良いハサミは職人の霊(たましい)となって受け継がれていきます。数ある道具の中で、ハサミは人間にとって最も原始的な道具であり、そういった霊が込められるのもそんなハサミならではのように感じています。」
道具を受け継ぐことはまた、先達の魂や思いを受け継ぐこと…歴史を継承していく、大変かけがえのない事のようにも感じられます。
今後も、現場のお話を始め仕事道具など様々な角度から造園や清水園についてお伝えできればと思います。