vol.1 或るモミジの移植
2020/12/22
皆様こんにちは。清水園でございます。
さて、本日お伝えするのは「或るモミジの移植」のお話です。代表と掲載する現場についてのお打ち合わせの際、はじめに挙がったのがこの「モミジ移植」でした。
代表の想いと現場での工程を伺い…なるほど、これは是非お話すべきですね、と時間を経ても冷めぬ熱量を持つエピソードです。
平成19年3月の時節、仙台に「東北福祉大前駅」という駅が開業しました。その駅の前には、人々の往来を温かく見守るような形で、象徴的なモミジが植えられました。8メートルある8.5トンもの立派なモミジを、多くの思い入れをもって当時代表は植栽を手掛けたと言います。
モミジが駅前で人々の往来を見守り続けて10年の歳月が経った頃、再び代表のもとに、今度はそのモミジを「移植」したいとの連絡が入りました。
現在モミジのある場所に、今度は樹齢300年のオリーブを植えるとのこと。そのために、モミジを移植したいと。代表は依頼を受けたものの、その工期なんと「1週間」。
連絡が入ってから10日後には、そのオリーブが届くことが決まっていたそうです。
また、モミジの移植先も「法面」と言って、いわゆる平坦な地面ではなく傾斜地の斜面部分。さらに8.5トンのモミジを動かすのに大型のクレーンも入れられることができない現場…代表としても「かなり困難な現場だった」と。私もここまで話を伺い、驚きを隠せずにおりました。
「約150m程度の移動でしたが、資材屋さんの協力がなければできなかったと思われます。材料などほぼ土木現場で使用するものばかりで、よく短い時間で集中して材料を発注したと自分でも不思議な現場でしたね」そう代表が語るように、いわゆる通常は植木屋では使用しないような道具を使用している…との事です。
現場での大きな難関点であった「クレーンを使用できない」こと。
これは、「チェーンブロック」を使うことでなんとかモミジを吊り上げる事ができました。丸太をワイヤーで束ねた手製ボンデンと呼ばれる3脚と5トン吊りのチェーンブロックで、モミジの枝葉を守りながら垂直方向に持ち上げていきます。
そして、移植先までは手製のソリで「コロ引き」の方法でモミジを移動させます。狭い現場でも小回りの効く移動手段で、専用の台車やコロ棒で引くなどして運搬を行います。今回の現場では、チルホール(横に引っ張ることのできるクレーン)やユンボ(ショベルカー)を使いながら、なんとか現場までモミジを移動させることができました。
さて、大型のクレーンを入れることの叶わない現場での巨大なモミジの移植・植え付け…チェーンブロックでの吊り上げと、ソリを使ったコロ引きとで、なんとか移植先までモミジを移動することができました。
ここからはまた、法面…いわゆる傾斜地にモミジを植え付けていきます。
再びチェーンブロックを組み、モミジを持ち上げていきます。それにしても、8.5トンものモミジ…チェーンブロックの耐荷重など問題なく持ち上がるものなのでしょうか。
代表曰く「実はこのモミジ…駅前に植えた当初は8.5トンあったのですが、歳月とともに植栽条件の悪さもあり衰弱してしまっていました。これは根の大きさを見て判断しましたが、当初チェーンブロックも5トン用のものを2組使うつもりでいました。結果的に、チェーンブロック1組を使用し、持ち上げるに至りました。」
その後無事に植え付けが行われ、松の板で土留(根の土の流出を防ぐ為の枠組み)を設置して、モミジの移植は完了しました。
そして元モミジのあった場所には、スペインからやってきた樹齢300年のオリーブの巨木が、駅を行き交う人々を悠々と見守ります。
新しい場所に植わるモミジは、役割をオリーブに託し静かに陽の光を受け、より穏やかな印象をたたえています。
木をはじめ造園に関わる自然の物ものは、人の手により整えられるように、人の手により生き続けることも、また絶えてしまうことも…言葉を発したり自身で移動することがないからこそ、その生命はある意味で携わる環境や人に委ねられているように感じます。
おそらく日々を生きる中で、草木をそこまで深淵な視点で見つめることはほとんどないかもしれませんが…このモミジとオリーブをはじめ、多くの樹々が、多くの人々と想いによって、その生命を育んでいることでしょう。
前・後編に渡りお伝えしました「或るモミジの移植」のお話、お楽しみいただけておりましたら幸いです。
また、今後も清水園では代表の想いを通して、清水園で手掛けた施工現場や、造園にまつわるお話を皆様にお伝えできればと思います。
どうぞ今後とも宜しくお願い申し上げます。