vol.73 令和5年全国都市緑化フェア
2023/6/6
皆様こんにちは。清水園でございます。
さて、本日お送りして参りますのは「令和5年全国都市緑化フェア」のお話。緑化フェアは全国都市で行われる地方博覧会の一つで、いわゆる‘花と緑の祭典’。人々が自然・緑の豊かさを楽しむと共に、その大切さを認識するという意義深いフェアでございます。
令和5年、晴れて宮城県が会場に選ばれ、弊社代表もフェア前には目まぐるしい日々を送っていたご様子…詳しくお話を伺っていきましょう。
「前回宮城県が緑化フェアの会場に選ばれたのは、平成元年の事でした。ですので、そこから35年ぶりに宮城県・仙台市での開催に至ったわけなのです。一昨年は北海道、昨年は熊本、来年は川崎…といったように全国都市が会場に選ばれますが、毎年行われるこの国内最大級の花と緑の祭典では、全国から来た造園家たちが会場での庭づくりに腕を振います。」
仙台が会場となる今年、会場は主に4つのエリアに分かれます。‘メイン会場’‘まちなかエリア会場’‘東部エリア会場’‘連携会場’とある中で、弊社代表が設計し参加するのはメイン会場である‘青葉山公園追廻地区’。追廻住宅跡である‘西公園’を会場として整備し、54団体がまとまって庭を作るとの事。弊社代表が名を連ねる‘仙台庭師会’は仙台の造園会社23社が集い、一つの庭を製作いたします。
「私は元々仙台庭師会の役員だったのですが、諸事情で一度退いておりました。ところが、昨年7月に庭師会の総会に出席した際、会長から直々に‘緑化フェアで設計して欲しい’とご依頼いただき…これはなんとも断ることの出来ない空気だったこともあって、お引き受けした次第です。」
出展にあたり、12月中に作品のタイトルやコンセプト、図面をまとめて提出することになっていたそう。
庭の敷地面積は幅5m×奥行き6mと大きな庭ではないものの、そこで表現できる世界観は出展者により様々。代表もなかなか苦心したようです。
「せっかく作るのですから、他の人は作ることが出来ない仙台の景色を作りたい…というのは念頭にございました。また会長に先に言われていたのが、弊社がここ数年製作を手掛ける‘仙台門松’と仙台藩に伝わる‘貝玉垣根’を組み合わせて設計して欲しいとの事でした。」
貝玉垣根というのは、宮城県松島町にある観瀾亭(伊達氏の邸宅から現存する唯一の建物)の入り口にのみ存在するという非常に珍しい垣根のこと。その様相もまた特徴的で、垣根は高さ2m・柱は2m50cm程度と大きく、葉のついた竹を編んで製作されます。
通常、竹垣といえば耐久性の観点から申し上げても葉は取って製作するのが一般的。やはり貝玉垣根も定期的に作り直しが入るとの事で、個人のお家には設置が難しいことも見て取ることが出来ます。
「仙台庭師会の会員の一人が、この貝玉垣根を製作されている方でした。ですので、発案までは非常にスムーズだったのですが…ここから図面に起こしてまとめる作業というのが、なかなか骨の折れる作業だったわけです。」
弊社代表が設計を担当する‘仙台庭師会’が出展することとなった「令和5年全国都市緑化フェア」。仙台門松と貝玉垣根とがコラボレーションした庭を製作する…という会長のアイディアを、他庭師会メンバーと情報共有出来るように図面に起こして参ります。
「図面の提出期限もございましたので、CADを使用しなんとか仕上げて参りました。入り口の部分に仙台門松、その奥に貝玉垣根を配する事は決まっていたのですが…石積みもしたい、滝も作りたい、などと…やはりこういった機会ですから要素を盛り込みたくなるものです。ですが、限られた敷地面積で全てを入れることは物理的に無理ですから、そこは頭を捻りましたね。」
最終的に代表がまとめ上げた作品のタイトルは‘伊達の伝統’。架空の仙台・日本邸宅をイメージし設計されているとの事。
「仙台門松・貝玉垣根共に格式高い物ですから、それらのあるお家といえばやはり立派な人の住まわれる邸宅…そういったお家でよくあるのは‘門の向こう側が分からない’という、閉ざされていながらも荘厳さの伝わる風格の高さです。
そこで、門の向こう側は囲って一切中を見せない…という仕様に致しました。貝玉垣根に扉もついていますが、実際に扉が開くことはありません。当初滝を作りたいという思いもございましたので、開くことのない扉の向こう側に井戸を設置し水を出し、音だけが聞こえる…という仕組みです。
また、ここで私がこだわったのは門の足元に配した‘戸摺石(とずりいし)’。お茶室や立派なお家の門の足元などに見られる大きな敷石です。こういった石もなかなか巡り会うのにご縁が必要ですが…なんと2月に畳まれるという石屋さんから‘石を買って欲しい’とご依頼があり、庭石も無事手に入った次第です。」
代表曰く「材料が決まると頭の整理も出来る。」との事で、アイディアがまとまってからは実際どのように作るのか、CADで配置し縮尺などを確認しながら図面をまとめていかれたそうです。
「年末差し迫る12月末に図面も無事提出し、1月に現地説明会がございました。ところが…驚くべきことに、我々の庭が設置を予定している場所の正面に、12月には無かった電灯が新しく設置されていたのです。これには言葉を失いました…庭の入り口に電灯があっては、雰囲気も何もあったものではございません。
当然の事ながら電灯は退けられませんし、庭の設置場所も変更はできません。そこで、提出した図面とは異なりますが、入り口の向きが東側だったところを急遽南側へと変更することに致しました。役所の方もその場にいらっしゃいましたので、その場で相談しすぐに変更は快諾していただけました。」
現地のお写真を拝見しましたが、確かに…‘なぜここに’といった具合に、電灯が。とはいえ、入り口の向きも変更でき、3月半ばに無事施工がスタート致しました。
「 ‘立派な人の住まわれる邸宅’のお庭をイメージし製作するにあたり、門の向こう…塀で囲われた邸宅の中をイメージしてもらうためにも漆喰壁を設置する必要がございました。柱を地面へ埋めるにあたり、最初は手で掘ろうと思っていたのですが…地面は思いの外固く、また玉石などの埋設物もたくさん出てくるような状態でした。結局、手で掘ることは諦めて重機を持ち込み穴を掘ることにしたのですが…他の参加者の方々も、それゆえ掘るのではなく上に土を盛るような設計に急遽変更されていた方も多くいらっしゃいました。」
柱を無事に立てた後は、その内側に井戸を設置して参ります。代表曰く、井戸は「閉ざされた門の前に立った時に音だけが聞こえるように」との事。
開いた門のコンセプトもお考えだったようなのですが、敷地面積の関係上、お屋敷の通路だけでいっぱいになってしまう為、門の向こう側は流れる井戸水の音から鑑賞者の方に邸宅内の様子を想像してもらう…という設計に。防水シートに土管を入れ、特にお化粧は施さずに水を流して参ります。その後、植栽をしながら飛び石の設置も行います。
「飛び石や灯篭など、前編でもお話しした通り畳まれる石屋さんから立派なものを譲っていただきました。灯籠は50年ものですから…お売りするのにも思わず‘勿体無い’と思ってしまうほどのお品。会場で活躍してもらいました。」
確かに、今回の‘立派な人の住まわれる邸宅’のお庭には最適な佇まいです。その後、板塀を作成されたとの事。通常は石膏用ボードやケイカル板を使用するとの事ですが、イベントの会期は2ヶ月…終了後は産廃処分となりその分費用もかかってしまう事から、今回はコンパネで対応されたそうです。
「製作費など全て持ち出しでの参加ですので…ゴミや予算も削減したいですから、臨機応変に製作を進めて参ります。最初に柱を塗装する為、マスキングを施しペーパーをかけてから着色致します。壁は漆喰で真っ白に仕上げる予定ですので、コントラストを意識し柱は茶色に致しました。
板塀自体はこのお庭の裏側に当たりますので…正面からは見える場所ではございません。とはいえ、やはり鑑賞者の方が回り込んでご覧になった際や裏側から歩いて来た場合など、全体の完成度を考えると手を抜きたくはありません。柱・土台ともに丁寧に塗装を進めて参ります。」
‘神は細部に宿る’…まさにその言葉を彷彿とさせますね。並行して扉も作成して参ります。お屋敷の扉の仕様に決まり事はございませんが…扉の向こう側が見えないようにするのと、味気なくなることを避けるために、板と板の間に竹を挟み装飾とし重厚感のある仕様に仕上げられております。⼾摺⽯(とずりいし)の上に設置することも踏まえて、扉には足も付けられました。
「以前も簡単にご説明しましたが、貝玉垣根は宮城県には松島の観瀾亭だけにある伊達家ゆかりの垣根です。一般のお屋敷には敷居が高い為お作りするのは難しいですが…今回イベントでは‘仙台を代表する景観の一つ’として、製作して参ります。
しかしながら、この貝玉垣根…竹の枝や葉っぱをはねるなど棒状にしていく仕込み作業が非常に手間がかかり大変なのです。垣根自体は4m50cm程度の幅しかないのですが、材料として使えるようにするまで10人がかりで作業致しました。
その編み方も特徴的かつ複雑で、5本ごとを交えながら編んでいくのですが、最終的に地面に刺さっている竹は15本…職人の方にご教示頂きながら編んでまいりましたが、さす順番・パターンなど途中で分からなくなる…というのが正直なところです。」
確かに、お写真を拝見するだけでも非常に複雑な織物を編んでいるかのようです。無事に竹を編み終えた後は、すだれ状にした竹を針金(番線)でまとめ、巻いて胴縁に致します。番線を隠す為にさらに竹で巻きお化粧を施します。
「余分な竹も刈り込み、金閣寺垣根も作るなど…次々に作業を進めて参ります。さて、先にお話しした壁の塗装ですが…実は次の日に雨が降ってしまった為、二日ほど乾かしてからパテ埋めを致しました。
漆喰は作業スピードも考慮しコテではなくローラーで行いましたが、やはり我々大工ではございませんので…一斉に取り掛かっても丸三日を要しました。作業中、西陽が射すと白い漆喰はさらに光って白くなりますから…‘眩しいね’なんて言い合いながら、どこを塗っているのか分からなくなる程です。」
最後に、盛り土及び門松のお化粧、苔を貼り地面に砂利を敷き…無事、仙台庭師会の作品「伊達の伝統」が完成致しました。仙台門松と貝玉垣根の印象も頼もしく、凛々しい仕上がりです。
「今回、イベントは2ヶ月ございますので仙台門松の松と竹は地面に植えております。通常ですと10m程度の松・竹を5m程切って良いところを使うのですが…生えている長さがちょうど良い松・竹を探してくるのが実は非常に大変でした。
私としては‘仙台門松を世に広める為’という名目もございましたので、今回庭に採用できたことはとても嬉しく思います。
また、設計を担当させていただきましたので…仙台庭師会に所属する企業の社長様・職人様、延べ70人…垣根の下処理も含めるとのべ80人程の人数で作庭をするという中で、主導権を頂いていたのも作業を進める上ではやりやすかったですね。一方で…私含め会長も不在の間に、一部図面とは違う設計で作業が進んでしまっていた場面もございました。造園の図面は植物や石など自然のものを多く採用していることもあり、基本的に現場合わせですから…この辺りの指示確認・意識共有の難しさは改めて感じた次第ですね。
ですが、取り組んでみて‘非常に楽しかった’というのが正直な感想です。イベントの施行中2週間は日常業務に影響が出てしまいますが…もし次があればぜひ取り組んでみたいです。他の方の作られた庭を見ながら、様々なこだわりや世界観・考え方・美学・技術を学ぶことも勉強になります。」
作品は晴れて‘銀賞’受賞との事。‘仙台の伝統’が一人でも多くの方の記憶に残っておりますと幸いです。