vol.80 第4回庭園わざと仕事オンラインセミナー
2023/9/26
皆様こんにちは。清水園でございます。
本日は、日本造園組合連合会が主催する「第4回庭園のわざと仕事オンラインセミナー」に代表が受講されたとの事で、内容・感想を伺って参りたいと思います。
「zoomを使用したセミナーの参加にも随分と慣れて参りました。今回登壇されていたのは、長崎県で造園業を営まれる山口陽介氏と京都伏見で造園業を営まれる猪鼻一帆氏、お二人の公演及び対談でございました。お二人はそれぞれの地元でのお仕事を初め、国内に限らず世界を舞台にご活躍されている方々です。私と同世代ということもあって、興味深くお話を伺いました。」
山口氏と猪鼻氏は、お仕事を共にされることも多い大変仲の良いお二人との事。初めに、山口氏の手がけられたお仕事からセミナーがスタート致しました。
「山口さんは近年、幼稚園や保育園のお庭を多く手がけられているとの事でした。山口さん曰く「私は庭ではなく遊び場を作っている。」との事で…その根底には、ご自身が幼少期どのように何をしていたか、今の子供達に必要なものは何かということがあるようです。」
現在は、身近な道具ひとつにしても‘安心・安全’が前提で設計されていることがほとんど。大人も子供達に進んで危険を犯させるような真似はしないでしょう。その一方で、今の大人たちが子供の頃にやっていた事・環境などを振り返ると…危ないことも楽しいことも、自然と触れ合って遊んでいた方々も多かったのではないでしょうか。今では整備し尽くされそういった場所もほとんどなく、山口氏はそこに懸念点を感じられているようでした。
「そこで山口さんが作られた代表的な作品の一つに、福岡県の幼稚園のお庭があるのですが…20トンある岩を重ねて洞窟のようなものを作られたのですね。私もかつて幼稚園を手がけた事がございますが、‘危ない・危険’と石に対してご指摘を受けることは多くございました。ですが、子供達に‘危ない’という感覚も自身の経験で身につけていく必要というのは、やはりあるように感じます。
山口さんもこの庭を造られる際に、園長先生や保護者の方々も交えてメリット・デメリットをきちんと話し合われた上で‘感性を養うのにこの庭は良いものなんだ’というように、ご納得いただいた上で作られたそうです。確かに…そこを飛ばしてしまうとただ自己満足で作ってしまっただけになりかねません。作り手が様々なケースを想定しうるからこそ、あらゆる角度からフォローし実現・実行していく庭づくりの良い例でした。」
完成した洞窟には、普段引っ込み思案な子も上に登って遊ぶなどして意外な好奇心や個性が引き出されているとのこと。山口さんはその他にも、幼稚園に田んぼを作り子供達に田植え・水の管理・雑草抜きを全て手掛けさせるなど、‘自身で考えて遊ぶ・行動する’そんな庭づくりを行われているそうです。
「情操教育としては非常に優れている例だと感じます。また、山口さんご自身も「‘こういう事があるから気をつけるんだよ’と子供達に伝えると、皆怪我なく自然と共生してくれる。」と仰っていました。」
長崎の山口氏に続いて京都の猪鼻氏によるお仕事の紹介を続けて参ります。
「猪鼻さんは京都の伝統ある造園屋さんのご子息で、それ故に‘やりたいことはあるのに好きにやらせてもらえない’というジレンマがおありだったようです。そんな中でも唯一、猪鼻さんの自由な感性を生かすことの出来たのが門松だったそうです。猪鼻さんは毎年門松の新作を発表されていますが、造園の雑誌『庭』にも何回も掲載されている程。ご本人曰く「みんなと違った門松は作れないかと試行錯誤して作った。」との事です。」
筆者もお写真を拝見しましたが…スギの葉を刈り込んで制作された瓢箪を見た時には、自身の中にある門松のイメージが華麗に覆されました。
巨大な瓢箪の下には石臼が配されており「材料は気をてらったものは使わないが、自分で表現するためには自分で材料を取ってくるのが重要と考えている。」のだそう。山の中で一本50kgある竹を切ってくる事もあるとの事。
「仙台門松にしてもそうですが…門松はその土地や作る人のオリジナリティが反映されるもののように感じます。そもそも門松自体、青くて尖ったものに土地神様がいらっしゃる道標のようなものですので、どのような形にしなければならない…とは決まっていないのですね。一方で、やはり見慣れた門松というものが溢れているのも事実…それもあって、猪鼻さんの造形的な門松は印象的で斬新なのだと感じます。」
先程の石臼を使用した門松に関しては京都の石材屋さんのご自宅のもので、毎年志向を凝らした石材の使い方で門松を制作されているそう。また、茅葺き職人の方とのコラボレーションも逸品で、門松の竹を潔く一本で仕上げたり、鋭くカットされた竹の節はまるで笑い顔のように見えるなど…技術的な部分は真似が出来ても、アイディアや感性は猪鼻さんの独自性が光り、表現者として素晴らしいものと感じます。また、様々な職人同士が集う事で出来る事も数多くあるのだという事を、改めて実感致します。
「もちろん、門松だけでなくお庭も多く手掛けておられます。猪鼻さんはご自身のお庭を紹介される前に、‘かつてご自身が最も影響を受けた庭’を例にあげ、庭の一つの見方を提示してくださりました。その庭というのは、端的に申し上げれば‘石で出来た椅子と机’のある庭なのですね。
ですが、その‘机’はただ置いてあるだけではなく…うっすらと碁盤の目が刻まれているのです。その正面に同じ石で出来た椅子が配され、背景には年季を感じさせる大木が佇みます。まるでそこには碁の一手を思案するどなたかが座っているかのような、またその前後の時間や空気・風景を想像することが出来るのです。
猪鼻さんはこれを‘四次元的な発想の庭’と仰っていましたが、まさにその通り…それぞれは何ら特別な素材を使用しているわけではないのに、加えられた創意工夫により‘唯一無二’の忘れ難い世界観が出来上がる。これは、猪鼻さんはじめ山口さんの作品にも繋がる発想のように感じました。」
いよいよ猪鼻氏の手がけられたお庭のお話…世界を舞台に活躍される造園家のお仕事、興味深い限りです。
「東京にある帽子屋さんで手がけられたお庭が、また印象的でした。使用している主な素材は岩とサクラの木…なのですが、横に長く伸びた岩の表面にサクラの根が大胆に覆い被さっており、それはまるで岩に恐竜の爪が食い込んでいるかのようないでたちなのです。お庭のある帽子屋さんはいわゆる‘高級店’で、猪鼻さん曰く「こういったお店でお客様がどのようにこの庭を見・感じるのか…記憶に爪痕を残したかった。」と仰っていました。左官屋さんとコラボレーションしたという塗り壁も見事な職人技で、その繊細で耽美な壁と岩とサクラの豪快さのコントラストが、大変興味深い作品に仕上がっていました。」
また、日本国内だけでなく国外にまつわるお庭も多く手掛けておられます。
「東京で手がけられたというお庭は、‘スペイン建築に和風の庭園を作って欲しい’とのご依頼だったとのこと。スペインの建物といえば、石貼りで日本のそれとは当然の如く様相が異なります。猪鼻さんは、そこで‘平板’を製作し、また‘あられこぼし’にも挑戦されたとの事です。」
平板はご自身で製作されることで企画品にはない陰影が生まれます。‘あられこぼし’は、造園の仕事の中でも最も気が遠くなる作業の一つと言われるほど大変なのですが…小さな石を地面に平らになるように並べるという…型枠さえあれば誰でも出来るものの、何より根気が求められる内容です。
「大人8人がかりで4日かけて製作されたとの事です。しかしながらやはり仕上がったあられこぼしは圧巻で、昼と夜の表情の違いや16種類植えられたという紅葉との相性も非常に美しいものでした。」
その‘根気のいる作業’は他の現場でも活かされたらしく…猪鼻さんに門松を依頼されている石材会社の社長様のご自宅ガレージを依頼された際、半年がかりで‘あられこぼし’同様、地面に細かな石を差し込み波紋をイメージしたモザイクを製作されたとの事。波紋の先端は1cmあるかないかの細さですが、そこも丁寧に仕上げられておりました。
「色合い・細かさ・バランスのみで構成された見事な作品でした…また、目地は通常コンクリートを流し込むのですが、猪鼻さんは石と石の間に銅を流し入れひたすら叩いていかれたそうです。銅は流し込んですぐは美しい金色で、酸化鉄でだんだんと錆びて黒くなって参ります。その経年変化はまるで石積みのそれと似ていて、非常に風情のある作品に仕上がっていました。」
この他にもご自身の手がけたお庭の数々を見せてくださり、いずれも独創性に富んだものでした。特に、海外で手がけた‘日本庭園’に関しては日本に生えていない木や石を使い日本庭園を作るという‘日本庭園とは何か’について考えさせられるもので、猪鼻さんは「日本のものを使っていないが‘間・バランス・リズム’なんだろうな。」との事を仰っていたとの事。
あらゆるチャンスを逃さず丁寧な仕事を遂行してこられた事で、山口氏・猪鼻氏の現在があるように感じます。また‘仕事を続けていく’という事は、まさにそういった心がけ一つなのかもしれません。