vol.60 垣根工
2022/12/13
皆様こんにちは。清水園でございます。
さて、弊社では造園にまつわる様々な業務を遂行しておりますが、日頃よりお伝えしております‘石積み’や‘植栽’に限らず、作庭のご依頼は数多くございます。
本日ご紹介しますのは「垣根工」。いわゆる「竹垣」にまつわるお話です。
「東北福祉大学内の施設、ウェルコム北側石積み・北側西側植栽を手がけた際に、庭の周りを囲うように竹垣を設置しました。こちらはトータルで4回作り直しを行っているのですが、3回目に作り直しをおこなった際のお話からお伝えしていきましょう。」
竹垣を製作し約6年が経った頃、雪かきの最中竹垣にタイヤショベルがぶつかり、竹垣の柱ごと折れてしまったとの事…倒れた柱はなんとも痛ましい状態です。作り直しは‘天然の竹’で行われたそう。
「今竹垣は‘天然の竹’で作るものと‘人工の竹’で作るものとあるのですが、最初は‘天然の竹’の事例です。こちらの敷地はカーブがあるので竹の曲げ方などが難しくはあるのですが…長い竹を釘を打ちながら曲げて固定し作って参ります。
この形は‘四ツ目垣’と呼ばれる基本となる垣の一つです。横に渡す竹が二本・三本といった場合もあったり、‘四ツ目垣’という名前ですが実際は‘三ツ目’の場合もあったりと、正解の作り方があるようで無い…自由度の高い種類の竹垣です。」
この頃は街で竹垣を見かける機会は減ってしまいましたが…区画を表す役割としては、フェンスにはない竹垣の良さがございます。場所によって外からの目隠しにはならないものの、竹の持つ風合いは意匠として必要不可欠な印象です。
「天然竹を垣に使用する場合、他の材木と同様10月以降、竹の中の水が下がった時に切って使用します。常緑樹・落葉樹問わず休眠期で成長も少なく乾燥も早いので、製材する材木のほとんどは冬に取るのがセオリーです。
切り出した竹は遠目から見ると一見とても綺麗なのですが、実際は雨風や泥で汚れておりますので磨いてあげることが必須です。弊社は稲刈りし籾摺りの時に出る籾殻を使用して車庫で竹を磨きますが、現在は籾殻も手に入りにくい時代になってしまいましたので…メラミンスポンジなどで代用される方もおられるようです。」
竹取りから磨きに籾殻を使用する工程に至るまで、天然のものはやはり‘伝統の技’という印象を受けます。
「日本人は昔から、米作りで出た籾殻にしても藁にしても材料として利用する習慣がございましたが…今は田んぼや農家そのものも減りましたから、こういった材料を使った作業は贅沢なことなのかもしれませんね。
もちろん、メラミンスポンジでも磨けるのですが、磨きすぎで竹が白くなってしまうこともありますので…個人的には籾殻で磨のが良いなと感じております。
竹そのものにお話を戻しますと、きょうび天然竹で竹垣を依頼されるお客様も少なくなりました。
後ほどお話する人工竹はやはり長持ちしますし、そもそも垣ではなくフェンスを依頼される方がほとんどです。こういった資材調達に限らず、物作りの技術…造園では竹垣・マツの剪定・雪吊り・石積み、この4つは‘絶滅危惧種’だと申し上げても過言では無いように感じております。」
「籾殻で磨き終えた天然竹はノコギリで切った後、叩いて地面に入る程度に長さを調節して参ります。約90〜120cmが標準的な高さですね。叩きすぎても竹の頭が潰れますし、叩かなさすぎても刺さりが甘くなってぐらついてしまうので難しいところです。」
最後にシュロ縄を湿らせて竹同士を締めて結び仕上げます。手袋をするとどうしても指がはさんだりしてしまうそうで、冬ではありますが寒さに耐えながら素手でシュロ縄を締めていきます。
「天然竹を使用した竹垣は、最初は青々とした美しさを持ちながら、次第に日差しを受けて青さが抜け落ち着いた白っぽい竹へと変化していきます。環境によって寿命は左右されますが、およそ5年から10年で天然の竹垣は交換が必要となります。
こちらの竹垣を交換したのは、この時から7年後でございました。やはりまた雪かき作業中に壊れてしまったとの事で、今度は人工の竹垣で…とのご依頼を受け4回目の作り直しに取り掛かった次第です。」
竹垣を作り直される際は、まず既存の竹垣を解体されるところからスタートされるそう。
「人工竹の場合は、同じ場所にコンクリートの土台を埋め込むために柱用の穴を掘る必要がございます。天然竹の場合は掘立てですのでコンクリート・モルタルなどは必要ないのですが、人工竹は柱を立てた後モルタルで固定いたします。
手順としては、そこから胴縁をネジで止め、立子をネジで止め、シュロ縄の代わりとなるシュロターフを使用して竹を結束して参ります。」
工程としては土台作りの点が異なるものの、その他は天然竹を使用した垣根工と大きな違いはないようです。完成したお写真を拝見すると…(人工と理解し拝見していることもあるからか)人工の竹垣の方が、より整然とした印象を受けますが、初見での差異はほとんど見受けられません。
「現在の人工竹は出てきた当初…20年程前と比較すると、比べ物にならない程品質は向上しています。当時はプラスチックの表面にプリントを施し型押ししているだけで、色がだんだんと抜けてきたり、プラスチックも硬くなってきたり…と、天然竹の倍以上の金額がかかるものの質はあまり良くはありませんでした。
現在は昔に比べればわざとらしさや違和感も少なく、また竹の種類も選べるなど企業努力が進んでおります。
間近で見れば多少の人工物感は否めないものの、意匠としては大きく印象が異なることはございません。また何より‘壊れない’・‘腐らない’・‘枯れない’…結果、‘何回も作り直す必要がない’と、耐久性の面では人工竹を選ばれるお客様が多いですね。」
とはいえ、代表は「垣根工」の技術伝承に関して懸念されていることも…
「年間でも竹垣のご依頼は本当に珍しくなりました。故に、若い人に教えるのが難しく地味な技術…こればかりは真面目にやらないと覚えられないのですが、教えたとて実践が5年後…ということも。いかに本人が取り組むか、これは現場に出る次世代を担う職人達に委ねられているところでもございます。」