vol.144 移植【後編】
2026/7/27

後編:木の命を未来へつなぐ移植技術
大きな木の根巻きには、多くの人手と体力が必要です。根鉢が大きくなるほどロープの距離も長くなり、上に一人、周囲に複数人がついて、息を合わせながら締めていきます。巨大な根鉢を人の力で抑え込む作業は、見た目以上に重労働です。近年は、移植にかかる費用を考えると新しい木を購入した方が安い場合もあり、根巻きができる職人も少なくなっているといいます。だからこそ、こうした技術を現場で見ること自体が、若い職人にとって貴重な経験になります。
木を吊り上げる際にも注意が必要です。ベルトを幹に直接かけると、木に食い込んで傷をつけてしまうことがあります。そのため、板などを当てて表面積を広げ、負担を分散させます。今回移植したキンモクセイでも1.2トンほどの重さがあり、大きな木になればなるほど、吊り上げのわずかな角度や支点の位置が重要になります。一番大きなケヤキは、根鉢の大きさが想定以上となり、体積計算では5トンほどと見込まれました。さらに雨の影響で重さが増し、最終的には6.5トンに。予定していたクレーンでは対応できず、翌日に大型クレーンを呼ぶことになりました。
掘り上げた木は、すぐに積めばよいわけではありません。重機の動線を確保し、トラックに積み込みやすいように、一度クレーンで別の場所へ移動させます。このとき、トラックに積む順番と、移植先で降ろす順番を考えておかないと、後の作業が非常に難しくなります。大きな木、重い木、枝の張った木をどう組み合わせるか。荷台に積む際には、枕となる短い木材を敷き、その上に木を互い違いに重ねていきます。ロープで枝を絞り込み、高さを抑えながら積載していく作業にも、専門的な技術が必要です。
特にケヤキは全長が長く、荷台に収めるために形を詰める必要がありました。走行に支障がないよう、ロープとウインチで枝幅を絞り込む作業も行われました。時には枝が折れてしまうこともありますが、安全に運ぶためには避けられない判断もあります。最終的に、大型トラック2台と4トントラック1台にすべての木を積み込み、無事に移動させることができました。積載だけでも半日を要し、出発は昼前になるほどの大規模な作業でした。
今回の移植は、初めての県外出張作業でもありました。大型トラック2台と4トントラック1台に木を満載するような現場は、決して日常的なものではありません。体力的にも精神的にも大きな負担がかかる作業だったと思います。それでも、長年その場所にあった木をただ伐採して終わらせるのではなく、新しい場所で生かすために掘り取り、整え、運び出す。そこには、木に向き合う造園業ならではの姿勢があります。移植は、木の命を別の場所へつなぐ仕事です。一本の木を動かすためには、剪定、根切り、たる巻き、根巻き、吊り上げ、積載、運搬と、いくつもの工程があります。そのどれか一つでも判断を誤れば、木を傷めたり、現場の安全を損なったりする可能性があります。完成後の景色だけを見ると、木が移動したという結果しか見えないかもしれません。しかしその裏側には、木を生かすための技術と、現場を読み切る集中力があります。大きな木を移すということは、自然の重さと向き合いながら、人の手で未来の景色をつくっていく仕事なのです。










