vol.65 第34回佐賀青年部全国大会
2023/2/7
皆様こんにちは。清水園でございます。
弊社代表は、日本造園組合連合会や青年部に所属しております事もあり、日本全国様々な都道府県へ渡航する機会や、地域開催の催しに参加することも多くございます。
その中でも、当コラムで度々ご登場されているカリスマ造園家・御手洗さんがお住まいという事もあってか、御手洗さんと出逢われてからは何かと理由をつけては大分県へ訪れる機会も度々あったご様子。
「今回お話しする‘第34回佐賀青年部全国大会’についてですが…こちらにつきましてもやはり、御手洗さんの庭園見学が主な内容になってくるかと思います。改めてご説明すると、‘全国大会’というのは各都道府県の持ち回りで毎年開催される催しです。
その多くは一泊二日で、1日目は造園にまつわる活動紹介や懇親会、2日目はオプショナルツアーと題して各地の有名な庭園や景勝地・作庭された代表的な作品を見る…といったような内容です。
オプショナルツアーは自由参加ですので、九州での開催となるとやはり私含め宮城県の御手洗さんファンは必然的に大分へ赴く流れになって参ります。」
今回の、全国大会参加者は160名中16名…参加人数の1割を宮城県の造園家達が占めていたそう。全国での割合と考えると、意識の高さが伺えます。また、16名中8名は御手洗さんの作庭見学へと出向かれたとの事で、こちらもまた御手洗さん人気の高さが伺えます。
「もちろん、佐賀県でしか見ることのできない場所・景観も多くございますので…大分へ向かう前に短い時間でしたが幾つか訪ねさせていただきました。
佐賀県・唐津のシンボルである唐津城をはじめ、唐津焼の窯元・十二代中里太郎衛門窯、また重要文化財に指定されている旧唐津銀行など…歴史を包含する和から洋まで、様々な建築や場所を楽しませて頂きました。」
風光明媚だけでなく数ある伝統にも触れることが出来るのは大変魅力的ですね。その後、御手洗さんを尋ねて大分県へ移動して参ります。
「この佐賀青年部全国大会は、平成26年に開催されたものなのですが…実は前年の平成25年、九州庭師会でも御手洗さんの作庭されたお庭を幾つか見学したところではございました。その際に1箇所だけ…作庭中の民家があったのです。
‘九州庭師会’でのお話では詳細をお話ししませんでしたが、市役所の職員さんのご自宅で、定年退職をされる際記念にお庭を造られたとの事でした。我々が当時伺った際には、水を流すところにコンクリートを打たれていたばかりで‘完成状態’ではなかったのです。
作庭中のお庭を見られる機会もほとんどないので、それは貴重でとても嬉しい事でした。
特に御手洗さんはコンクリートの使い方・隠し方が非常に秀逸な方ですから…いわゆる‘お化粧前’のコンクリートを見ることが出来たタイミングでもございました。今回は、その後の完成した現場を拝見して参った次第です。」
一年後、完成した現場はどのようになっていたのでしょうか。
「当時コンクリートの打ちっぱなしだったところなどは、細部まで仕上がっておりました。御手洗さんは人工的なところを絶対見せないように、苔や植栽などをしあらゆる所まで隠して仕上げられます。
御手洗さんご自身‘コンクリートと苔は友達だ!’と仰っていたのも印象的ですが…御手洗さんはコンクリートが乾く前にそこへ苔を貼られるんですね。苔自体は湿った所に付きますし、貼られてしまえば飛んでいく心配もありません。
苔自体は緑の部分で水分を吸い生きているので、生育上も全く問題ございません。一般的なテクニックではないですし、私自身ではなかなか手がけない造作…流石御手洗さん、と改めて感じました。またお庭そのものも随所随所に荒々しさを感じるような‘これぞ御手洗さん’といった印象でございました。」
筆者もお写真を拝見しながら、なるほどその‘御手洗さんらしさ’のようなものを感じる場面がございました。例えば、お庭の通路の洗い出し部分。土の表面を竹箒で払ったかのようなテクスチャーが非常に印象的です。
「ここの部分は、コンクリートを打った後に竹箒でわざとこのような跡をつけておられるのです。コンクリートだと味気ない…というのは、お分かりいただけるかと思うのですけれども、このコンクリートの配合もセメントと山砂を混ぜることによって、より庭の土のような温かみのある色・質感に仕上げておられます。このような造作は土木工事に携わる方々は決して行いませんが…我々造園家だと‘あり’なのです。
また、自然の原風景…という観点で申し上げると、御手洗さんは植栽の際にいわゆる‘あまり良くない木’を多く使われます。ただ、悪いところを見せないようにお互い補い合うよう植栽されているのです。ポキポキと曲がっている木も、‘ここに植わっているから良い’という木の個性や相性が引き立つ植栽を施されます。
そもそも、山自体も様々な木が寄せ集まっているのですよね。日の当たる所は当然枝葉が茂りますが、陰っているところを覗けばそこは腐り朽ちていたりも。山での草木の生え方を、庭にそのまま採用されている大胆さは…本当に見事だと感心致します。」
また、御手洗さんはそういったご自身で培われた技術でさえも、惜しみなく若い人々に教示するお方だったそう。
「御手洗さんは技術者や職人、手を汚して頑張る人をとても大事にし面倒を見る方でした。まさか、その日の夜の宴会が、御手洗さんにお会いする最後の機会になるとは夢にも思いませんでしたが…」
このお庭も、代表がご覧になった最後の作品でもあったそうです。
「御手洗さんのお庭を思い返すと…自然の原風景を再現する天才の御手洗さんですが、やはり‘使う人・住まう人あっての庭’という造園家の姿勢は強く伝わって参りますし、またそのお人柄も素晴らしい方でした。御手洗さんの魂を継いで、私も‘私だからこそできる仕事’に信念を持って取り組みたい…そのように思う次第です。