コラムColumn

vol.26 令和3年 日本造園アカデミー会議

2021/11/9

皆様こんにちは。清水園でございます。

こういった時節柄、オンラインでの交流や催しがとても増えたように感じます。

弊社代表もまた、昨年からオンラインでのお仕事や発信の方法を模索するなどして現在に至るとの事。

本日お話させていただきますのは、そんなオンラインにて代表が参加致しました「日本造園アカデミー会議」での内容について、でございます。

「日本造園アカデミー会議というのは、学識者が主催・登壇する造園にまつわる根本的・学術的な知識を身につけることの出来る場です。毎年9月下旬に開催され、私も3年前から造園アカデミーの会員になり会議に参加しております。

基本的に現場に出ている人間というのは技術に長けているものの、歴史云々といった知識を持っていないことが多いのです…とはいえ、造園の本質を理解するためには歴史などから知る必要がございます。」

確かに、運営委員の方々の顔ぶれを拝見してみるとランドスケープデザインや発掘調査といった、造園に親しいもののより学術的研究を主とされる方々が多いように見受けられます。

現場に出ているからこそ身につくものもある一方で、造園の歴史を学び違った視点から知識を得る機会はなかなか得難いとお察しします…そんな中で、こういった機会というのは非常に役立ちそうですね。

「そうですね。特に印象的だったのは、昨年日本大学短期大学部准教授の山﨑誠子さんが登壇されていた際【アフターコロナの庭】というテーマでデジタル化についてお話されていた内容でした。

’デジタル化が進まないと、今後は客に置いていかれてしまうし選ばれなくなるよ’といった旨を聞いて、思わずぎくりとなりました。

今後会議のほとんどはオンラインになり、図面などの共有もパソコンでできる時代。情報を発信できない人や苦手などと言っている人は駄目だ…と。植木屋だけの集まりではそういった話題は間違いなく出てまいりません。」

いかに現代の潮流を乗りこなすか…あらゆる職種においても重要な内容ですね。さて、この会議は本来であれば各地に集まり開催されるそうなのですが、昨年今年はオンラインでの開催となったようです。

「今年は、東日本大震災からちょうど10年目…それに伴い【災い転じて希望となす】というテーマで開催されました。

二日間にわたり、4名の登壇者がスライドなど資料を元にお話してくださいました。愛植物設計事務所の山本紀久さん、日本庭園協会会長の高橋康夫さん、造園連常務理事の宮本秀利さん、そして日本造園アカデミー会議議長の尼﨑博正さん。各人のお話をとても興味深く拝聴しました。」

未だ爪痕の残る状況ではあるものの、忘れがたい出来事から早くも10年…まさにこの地球・土地と造園とをつなぐテーマですね。

「はじめに、愛植物設計事務所の山本紀久さん。宮城県石巻に復興記念公園を作るに当たり、技術から心得までをお話くださりました。

東日本大震災で流されてしまった松林…もう一度森を復活させるという試みです。当然のことながら、森は一晩で出来るものではございません…最初からは大きな木が植えられないので、まずは苗木を植えていきます。

将来森作りの礎石になるような苗木を選んで植えることが大切です。」

確かに、苗木の選定から配置まで…行き届いた配慮が必要となりそうですね。

「そう、苗木も種別に応じて成長スピードが異なりますので、そこを意識してあげることがポイントです。ケヤキ・サクラ・スギ・マツといった’針葉樹’は成長が早く、ツバキ・シイといった’照葉樹’は最初日陰で育つといった特徴がございます。

苗木を一斉に育てることで、針葉樹が先に育ち木陰を作れるようになったところで照葉樹が育ってくるといった仕組みです。

ただここから重要なのは’植えて終わり’ではなく’植えてからがスタート’というところを、森づくりに関わる全員が認識・共通意識として持たなければならないという点です。

日頃造園に携わる事のない人々からしてみると’植えて終わり’になってしまいがち。

管理を継続して初めて森は仕上がります…とても大きなスケールの庭のようです。」

最初の目標設定と共有がいかに大切か…ということに気付かされますね。

「日本庭園協会会長の高橋康夫さんは、東日本大震災復興記念公園庭園 築園のあらましについてお話くださりました。

震災後に自分が出来ることは何なのか…そのようにお考えになられた際、 ’やはり庭師は庭を作るのが仕事’ …とこの取組に至ったそうです。

場所は黒川郡大和町の覚照寺の所有する山林原野、約4000㎡と広大な敷地です。’金も出さないけど口も出さない。いつまでかかってもいいから作っていい、山にあるものも好きに使ってくれていい’と非常に太っ腹なご住職だったそうです。」

本来であれば助成金を受けられる現場だったものの、そうすると大手ゼネコンや下請けに仕事をまわしてしまうことになり自分たちの庭づくりではなくなってしまう…ということで、自分たちで取り組むことの出来る仕組みを設けられたそう。

それが’ボランティア参加での作庭及び講習会の実施’だったそうです。

「かねてから ’講習会などで庭を作っても解体しなければならない’ といった実態が日本庭園協会で問題視されていたのと併せて、講習会を通して庭園づくりを行ったそうです。延べ3500人もの方々が携わり5年(5日間の講習が6回と下準備など・それぞれテーマを設けて)かけて完成したそうです。

親方一人と決めて統一性をもたせて進めているところと、参加者全員が ’ボランティアだけど良い庭をつくる’ という同じ目標をもって取り組んでいたこと。

志のある人が集まり技術を習得しようと全国から集まり作庭するのは素晴らしい…と思わされる現場のお話でした。」

「3番目のご登壇が、造園連常務理事の宮本秀利さん。長崎県の雲仙・普賢岳にまつわる公園整備についてお話くださりました。

1990年に雲仙普賢岳が火山噴火した後、被害に合われ亡くなられた方の車などもそのままにされてしまっていたそうなのです。その時からちょうど30年後の2020年、場所をただの焼け野原ではなくモニュメントとなるように公園整備を行われたとのことでした。

結論から申し上げると、補助金は少なかったものの風景を残しつつ復興できたそうです。

復興の際、法律や補助金等の条件はやはりネックになってくるようで…いかに当初の解釈を曲げないように改修・補修を行うかに尽力されたそうです。

とはいえ復興は人の手で行うもの。最後はやはり熱意が人の心を動かすものです。また災害が増えている中で、景色を残しつつ復興していくその取組は、今後も様々な場所で実行されまた課題も伴ってくるのだと感じました。」

確かに、 ’改修・補修’ といった目的が ’資金調達そのもの’ にすり替わってしまわないよう注意しなければなりませんね…何事も本末転倒に陥らないようにすべきは、あらゆる領域について言えそうです。

「そして最後に、日本造園アカデミー会議議長の尼﨑博正さんのお話。古庭園の発掘調査にまつわる内容で、資料の冒頭のお言葉がとても印象的でした。

’災害には天災と人災がある。’ …天災は逃れきれないものがあるものの、造園家が確かな技術で確実な仕事をすればある程度は庭園の被害も少ないでしょう。一方で人災。社会状況や利用事情、美意識の変化などによる意図的な行為として現れるのですから、非常に厄介です。

庭が残るか残らないか…それは、庭を継いでいく人の美意識をいかに繋げられているか、というところが重要です。また、庭の樹木は成長しますのでそれを適切に更新し続けることで美しい庭は保たれます。

庭の持ち主…施主が庭の歴史に対する知識を有し、請け負う造園家が確かな技術と知識を有していること。この関係性と互いの有識が、庭を残す上では肝心なのです。

また…発掘調査に伴い興味深かったお話としては、 ’庭の見えない部分を解き明かすには、庭園を残すという観点からは少し外れることもある’ …といったエピソードです。

と申しますのも、発掘調査では庭を部分的に解体・破壊しなければデータを収集することができません。護るために護る事とは真逆の行為が発生してしまうのです。

ですから、それらを最小限に留めて調査することが大切…と仰っていました。」

私も日頃、代表からは現場を通したお話を伺うのが主で、こういった学術的な観点からのお話は大変刺激的で勉強になりました。

「これまで技術しか磨いてきませんでしたが…知識を身につけることはやはり重要だなと実感致します。今後もこういった学びを通して、より奥行きのある技術へと還元できたらと感じます。」

「日本造園アカデミー会議」の内容、お楽しみいただけましたでしょうか。次回はある個人宅での施工のお話をお話してまいります。楽しみにお待ちいただけますと幸いです。